朝、知らない業者から電話が来た。「◯◯さんの退職の件でご連絡しました」。部下が、退職代行で辞めた。頭が真っ白になっている管理職のあなたへ。
私は辞める側の記事を多く書いてきたが、この記事は使われた側のために書く。やるべき手続き、できないこと、そして感情の置き場所まで。
先に一文で。退職代行を使われたら、本人への直接連絡は控えて手続きは代行経由で淡々と進め、退職は止められない前提で業務の再配分と、なぜ直接言えない職場だったかの原因分析に力を使うのが正解だ。
この記事の要点
- 本人への直接連絡は控える。業務の確認は全部代行経由でできる
- 退職は止められない。会社側にできるのは調整の協議までだ
- 当日やることは4つ。窓口一本化・上への報告・業務把握・貸与品の段取り
- 一番価値があるのは原因分析。代行を使われた職場には理由がある
当日やること4つ
動転した状態で判断を重ねないよう、当日の動きを固定しておく。
- 窓口を一本化する|代行とのやり取りの担当(人事か直属上司のどちらか)を決め、複数人がバラバラに対応しない
- 上と人事へ報告する|隠して自力で呼び戻そうとするのが一番こじれる。事実をそのまま上げる
- 本人の業務を把握する|進行中の案件・引き継ぎが要る事項・アカウントや権限を棚卸しする
- 貸与品と書類の段取り|貸与品は郵送での返却を代行経由で依頼し、離職票などの書類は法定どおり発行する準備に入る
そして、やらないことを1つ。本人への直接連絡はしない。電話もLINEも、である。理由は次の節だ。
会社側が、できること・できないこと
法的な線引きを冷静に見る。
できないこと
- 退職を拒否する|退職は一方的な意思表示で成立し、2週間で契約は終わる。承認は要件ではない
- 損害賠償で脅す|通常の退職で賠償が認められる可能性は極めて低く、脅しの言動は録音・保存されて会社側の材料になる
- 離職票を出さない・給料を払わない|どちらも法令違反で、行政指導の対象になるのは会社側だ
できること
- 退職日や引き継ぎについて、代行経由で協議を申し入れる(応じるかは本人の自由)
- 引き継ぎ資料の作成を依頼する(命令はできないが、依頼には応じてもらえることも多い)
- 貸与品の返却・情報資産の整理を求める
要するに、止める手はなく、綺麗に終わらせる手だけがある。ならば後者に全力を使うのが、管理職としての合理的な判断になる。辞める側から見た同じ構図は会社が拒否したらどうなるかの記事で書いた。
感情の整理。なぜ直接言ってもらえなかったのか
手続きより長引くのは、こちらだ。「なぜ一言も相談してくれなかったのか」。裏切られた感覚、育てた時間への喪失感、自分の管理への疑い。
1つ、構図を渡しておく。退職代行を使う人の多くは、無責任な人ではなく、言えなくなるまで追い込まれた真面目な人だ。そして人が直接言えなくなる理由は、だいたい2つしかない。
- 言った時の反応が怖かった|過去に退職を切り出した誰かが強く引き止められた・怒られた場面を見ていた
- 関係の中で、ノーを言う練習ができていなかった|業務の依頼を断れない関係は、退職も切り出せない関係だ
つまり「なぜ言ってくれなかった」の答えの少なくとも一部は、職場の側にある。これはあなた個人への断罪ではない。ただ、ここから目を逸らすと、2人目3人目が出る。
原因分析と再発防止。使われた事実をデータにする
感情が落ち着いたら、事実を職場のデータとして使う。見るポイントは3つだ。
- 労働時間と業務量|辞めた本人の残業・休日出勤は、周囲と比べてどうだったか
- コミュニケーションの経路|本人が悩みを打ち明けられる先が、職場に1つでもあったか。1on1は形骸化していなかったか
- 退職の前例|過去の退職者は、どう扱われたか。強い引き止めや慰留の修羅場が語り草になっていないか
3つを点検して手を打てば、代行を使われた経験は、職場が変わる起点になる。放置すれば、同じ朝がまた来る。部下を送り出す側の心の整理は、辞める側の心理を知ることでも進む。引き止められずに去る人の内心は全く引き止められなくて寂しい時で書いた。
残された側の業務。再配分の原則
抜けた穴の埋め方も、短期と中期で分ける。
- 短期|止まると実害が出る業務だけを特定し、暫定の担当を置く。全業務の完全な引き継ぎを目指さない
- 中期|補充の採用要求を正式に上げる。残ったメンバーの残業で埋め続ける選択は、次の退職代行の呼び水になる
よくある誤解
「退職代行なんて非常識な辞め方をする人間は、こちらから願い下げだ」。そう整理したくなる気持ちは分かるが、この整理は原因分析を止める。非常識と切り捨てた瞬間、職場側の要因は検討されなくなり、構図は温存される。感情の防衛としては自然でも、管理としては損な整理だ。
「引き継ぎなしで辞めるのは違法だから、責任を追及できる」。引き継ぎは退職の法的要件ではなく、業務命令としても退職の意思表示後は強制力が限られる。追及の構えより、依頼の形で引き継ぎメモをもらう方が、実利がある。
よくある質問
代行業者が本物か怪しいです。個人情報を話していいですか?
もっともな注意だ。業者名を確認し、折り返しの連絡先を検索で確認してから対応すればいい。本人確認の書類(委任状等)の提示を求めるのも正当な対応になる。確認が取れるまで、社内情報を出さないのは問題ない。
本人のSNSに連絡したくなります
やめておく。私的な経路への接触は、業務の体裁すら失った圧力として最も悪く記録される。伝えたいことが感謝や餞の言葉なら、落ち着いた後、共通の知人経由や、本人が応じられる形に委ねる方がいい。
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