朝、ベッドから起き上がるのに時間がかかる。コルセットが手放せない。それでも人手が足りないから、今日も移乗介助に入る。
私のDMには介護職からの相談が繰り返し届く。まとめるとこうだ。
「介護の仕事をしていますが、腰痛がひどくて続けられるか不安です。コルセットをして働いていますが、痛みが引きません。人手不足で休むと迷惑がかかるので言い出せず、我慢して働いています。仕事は好きなので辞めたくないですが、体が持ちません」
届く相談の典型例として答える。最初に、いちばん大事なことを言う。体は資本であると同時に、期限のある資源だ。
- 介護の腰痛は根性の問題ではない。作業の性質から来る職業性の負荷だ
- 業務が原因の腰痛は、労災として扱われ得る
- 身体的な負担は職場によってまるで違う
- 資格と経験は、体を使わない職種にも持ち出せる
腰痛は、あなたの弱さではなく作業の性質だ
まず前提を直す。介護の腰痛は、注意不足や体力不足の結果ではない。
人を持ち上げる、支える、体位を変える。この動作は、どれだけ正しいやり方をしても腰への負荷がかかる。しかも1日に何十回も繰り返される。負荷の蓄積は、若さや筋力である程度は相殺できても、ゼロにはならない。だから経験年数に関係なく起きるし、真面目に働いている人ほど早く来る。
そして厄介なのは、痛みが出た後も現場が回らないから休めない、という循環が起きることだ。休まないから治らない。治らないまま働くから悪化する。この循環を断ち切れるのは、あなたが決断した時だけだ。職場は、あなたが倒れるまで待ってしまう。
我慢の先にあるものを、先に見ておく
「もう少し頑張れば」という判断の代金を書いておく。
腰痛は、悪化すると回復に必要な期間が跳ね上がる。軽い段階なら数週間の調整で戻るものが、進行すると数ヶ月から年単位になり得る。そして慢性化した腰痛は、介護以外の仕事の選択肢まで狭める。立ち仕事も、長時間の座り仕事も、通勤すらつらくなることがある。
つまり、我慢は介護を続けるための行為に見えて、実際には将来の選択肢を削る行為になっている。いま動けば介護の中で働き方を変えられるが、体を壊し切ってから動くと、介護以外の道も細くなる。判断のタイミングは、痛みが軽いうちほど有利なんよ。
やることは3つ。受診する。記録する。職場に伝える。
- 整形外科を受診して、いまの状態を医学的に把握する。診断書が出れば、業務の調整を求める根拠になる
- 痛みの経過と、どの業務で悪化したかを記録する
- 業務が原因で発症した腰痛は、労災保険の対象になり得る。認定には診断と業務との関連の証明が必要だから、勤務先か労働基準監督署に相談してほしい。「言い出しにくい」という理由で、使える制度を使わないのが一番もったいない
このセクションに紹介する商品はない。いま必要なのは求人ではなく、受診と記録だ。
身体的な負担は、職場によってまるで違う
介護を続けたいなら、辞めるべきは介護ではなく、その現場の負荷だ。同じ介護でも、体への負担は職場で大きく変わる。
- デイサービス。自立度の高い利用者が中心の事業所なら、移乗介助の回数そのものが少ない
- 移乗支援機器を導入している施設。リフトやスライディングボードの整備状況は施設で差が大きい。設備投資をしている施設は、職員の体を守る意思がある施設でもある
- 生活援助中心の訪問介護。調理・掃除・買い物などが中心の依頼なら、身体介助の比重が下がる
- 人員配置に余裕のある施設。2人介助が徹底されている職場では、腰への負荷が根本的に違う
面接で聞いていい質問も渡しておく。「移乗の際の介助は何人体制ですか」「移乗支援の機器は導入されていますか」。この質問に具体的に答えられる施設は、職員の負担を管理している施設だ。答えを濁す施設は、それ自体が判断材料になる。
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資格と経験は、体を使わない職種にも持ち出せる
現場の身体介助そのものが難しくなっている人へ。介護の資格と経験は、体を使わない職種にも繋がっている。
- 生活相談員。相談援助と調整が中心で、身体介助の比重が下がる
- ケアマネジャー。実務経験と資格の要件があるが、キャリアの延長として現実的な道だ
- 福祉用具の専門相談員。現場を知っている人ほど強い職種になる
- サービス提供責任者・管理者。マネジメント側に回る
- 医療事務・介護事務。記録と制度の知識がそのまま活きる
現場で身につけた「利用者と家族への対応」「多職種との連携」「記録と計画の作成」は、どれも書けば実績になる経験だ。体を壊したから終わり、ではない。使う筋肉を変えるだけの話なんよ。
私も1社目は美容業界のブラック企業で、体を削って働いた側だ。あの頃は「休んだら迷惑がかかる」という理由で自分を追い込んでいたが、いま振り返って言えるのは、限界まで我慢して守れたものは何もなかったということだ。あなたの体は、施設の人繰りより優先される。それは冷たさではなく、長く働くための最低条件だ。
夜勤の負担が重なっている人は介護の夜勤ワンオペが怖い、給料の問題も抱えている人は介護を辞めたい。給料の安さは我慢で解決しないが姉妹記事だ。
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よくある質問
介護の腰痛は労災になりますか?
業務が原因で発症した腰痛は、労災保険の対象になり得る。認定には医師の診断と業務との関連の証明が必要だから、まず受診して、勤務先または労働基準監督署に相談してほしい。
腰痛があっても続けられる介護の仕事はありますか?
ある。移乗介助の少ないデイサービスや、移乗支援機器の導入が進んだ施設、生活援助中心の訪問介護など、身体的な負担の度合いは職場でまるで違う。
介護の資格は他の仕事で活かせますか?
活かせる。相談援助や記録の経験は、生活相談員・ケアマネジャー・福祉用具の専門相談員・医療事務など、体の負担が小さい職種に繋がる。
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