子どもは好きだ。仕事にも誇りがある。でも通帳の残高を見るたびに、この仕事を選んだ自分を責めそうになる。

私のDMには保育士からの相談が繰り返し届く。まとめるとこうだ。

「保育士として働いていますが、手取りが少なく一人暮らしがぎりぎりです。持ち帰りの仕事や行事の準備もあって、時給に換算すると怖くなります。園長には経験を積めば上がると言われますが、先輩の給料もあまり変わらないと聞いてしまいました。この仕事を続けたい気持ちはあるのに、生活が成り立ちません」

届く相談の典型例として答える。最初に、いちばん大事な事実を置く。あなたの生活が苦しいのは、あなたの働きが足りないからではない。

  • 我慢の量と昇給は比例しない。園の昇給テーブルがすべてだ
  • 「経験を積めば上がる」は、先輩の給与明細で検証できる
  • 処遇改善の金が、現場に届いているかは園によって差がある
  • 道は3つある。園を移る、自治体を選ぶ、業界を出る

「経験を積めば上がる」を検証する方法

園長の言葉を疑えという話ではない。検証できる言葉に変えろという話だ。

やることは1つ。勤続10年前後の先輩の給与水準を知ること。直接聞ける関係なら聞けばいいし、聞けないなら求人票で自分の園の経験者採用の提示額を見ればいい。そこに表示されている数字が、あなたの園の昇給の上限に近い。

毎年の昇給が数千円の園で10年我慢しても、月給は数万円しか変わらない。その間にあなたが払うのは、10年分の生活の苦しさだ。我慢は投資に見えて、回収の見込みがあるかどうかは園の給与テーブルが最初から決めている。感情ではなく、数字で確かめる問題なんよ。

処遇改善の金は、あなたに届いているか

保育士の待遇には、国や自治体の処遇改善の仕組みが入っている。ここで確認すべきことは単純だ。その金が、あなたの給与明細に反映されているか。

  • 給与明細に処遇改善に類する手当の項目があるか確認する
  • なければ、園にどう配分されているかを聞く。これは聞いていい質問だ
  • 答えを濁す、嫌な顔をする、説明が二転三転する。その反応自体が、園の体質の判断材料になる

同じ保育士でも、園の運営と自治体によって手取りは変わる。つまりあなたの給料の低さは、保育士という職業の宿命ではなく、いまの園といまの自治体の条件だ。ここを混同すると、打てる手を全部見逃す。

道は3つ。園を移る、自治体を選ぶ、業界を出る

道1。園を移る。同じ市内でも、給与テーブル・手当・持ち帰り仕事の量は園でまるで違う。公立と私立、社福と株式会社、認可と企業主導型。運営母体が違えば財布の事情も違う。あなたが苦しいのは保育士だからではなく、その園の条件だからかもしれない。まずこの仮説を検証する価値がある。

道2。自治体を選ぶ。保育士確保のために、家賃補助や独自の手当を出す自治体がある。住む場所と働く自治体の組み合わせを変えるだけで、手取りと固定費の両方が動く。引越しを伴う選択だから簡単ではないが、選択肢として存在することは知っておくべきだ。

道3。業界を出る。子どもが好きでも、生活が成立しない仕事は続かない。そして保育士の経験は、外で通用しないどころか強い。保護者対応は高難度の折衝経験だし、複数の子どもを同時に見る仕事は進行管理そのものだ。指導計画や記録の作成は文書作成能力の証明になる。企業内保育、児童発達支援、子ども関連の企業、事務職。資格と経験を持って出る道は複数ある。

どの道を選ぶにしても、次の園・次の職場の実態を入る前に確かめることが最重要だ。求人票の給与欄は、持ち帰り仕事の量までは書いていない。転職会議なら、園や会社で実際に働いた人の口コミが読める。残業の実態、人間関係、昇給の実際。応募前と内定承諾前に1回ずつ確認するだけで、「移った先も同じだった」という最悪の展開をかなり避けられる。

転職会議で園の実態を確かめる

動く前に、家計の現在地を1枚にする

どの道を選ぶにしても、先にやってほしいことがある。いまの生活コストと収入を1枚に書き出すことだ。

家賃、食費、通信費、奨学金の返済。そして手取り。これを並べると、毎月いくら足りないのか、あるいはいくらの手取りなら成立するのかという具体的な数字が出る。この数字があると、求人を見る目が変わる。「なんとなく良さそうな園」ではなく、「手取り◯万円以上で持ち帰りのない園」という条件で絞れるようになる。

もう1つ。持ち帰り仕事と早出・残業を時間で記録しておけ。1週間分でいい。時給換算した数字は、いまの園に残るか出るかの判断材料になるし、次の園の面接で労働時間の実態を質問する時の物差しにもなる。感覚の「忙しい」を数字の「週◯時間」に変えるだけで、判断の精度がまるで違ってくる。

罪悪感との精算。子どもを人質に自分を縛るな

保育士の相談で必ず出てくるのが、「子どもたちを置いていけない」という罪悪感だ。

その気持ちは、あなたが仕事に誠実である証明だ。ただ、はっきり言っておく。低い給与体系を維持したまま職員の善意で回っている園は、あなたの我慢を運営の前提に組み込んでいる。あなたが限界まで残ることは、その前提を強化することでもある。

私も1社目は美容業界のブラック企業で、「お客様のため」という言葉で自分を縛っていた。1年以内に限界が来て離れたが、いま振り返って言えるのは、あの我慢は誰も幸せにしていなかったということだ。あなたの生活が成立して、心に余裕がある状態でこそ、子どもに向ける目も優しくなる。自分の生活を立て直すことは、子どもへの裏切りではなく、保育の質の土台だ。

なお、眠れない・涙が出る・食欲が落ちるといったサインが出ているなら、話は転職より先に回復だ。心療内科や産業医への相談を今日の予定に入れてほしい。ここに紹介する商品はない。

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よくある質問

保育士の給料は我慢していればいつか上がりますか?

園の昇給テーブルによる。毎年の昇給額が数千円の園なら、10年我慢しても生活の景色は変わらない。先輩の給与水準を見て、園の上限を確かめるのが先だ。

処遇改善の手当は全員もらえるのですか?

国や自治体の仕組みはあるが、現場への配分は園の運営次第で差が出る。給与明細に項目があるか確認して、なければ園に聞いていい。答えを濁す園はそれ自体が判断材料だ。

保育士を辞めて別の仕事に就けますか?

就ける。保護者対応・複数人の同時進行管理・記録と計画の作成は、事務・受付・人材・福祉系で評価される経験だ。資格を活かして企業内保育や児童関連へ移る道もある。

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