退職の手続きで、「退職後2年間、同業他社に就職しない」という誓約書にサインした。だが、転職先は同業だ。行けるのか。訴えられるのか。退職金を返せと言われるのか。
先に言う。競業避止の誓約書にサインしていても、同業への転職は多くの場合できる。有効になるのは、期間が1〜2年以内で、範囲が狭く、代償があり、守る秘密が具体的な時だけだ。競業避止義務とは、無効になりやすい理由、有効の4条件、一般社員と役職者の差、違反した時、転職先に伝えるか、サインを求められた時、秘密保持との違い、顧客の線、相談先を書く。
先に一文で。競業避止義務は退職後に同業に就職や独立をしないという約束で、職業選択の自由から裁判では期間1〜2年以内・地域と業務の範囲の限定・代償措置・守る秘密の具体性・対象者が秘密に触れる立場、の条件が揃わないと無効とされやすく、一般社員が同業に転職するだけで請求されることはまれだが、顧客リストや技術情報の持ち出しと在職中の引き抜きは別で請求の対象になるので、前職の情報を一切持ち出さず、同業への転職なら内定後に転職先へ誓約書の存在と持ち出しがないことを伝えるのが正解だ。
この記事の要点
- 誓約書があっても多くの場合は転職できる
- 有効の条件は期間・範囲・代償・秘密の具体性
- 危ないのは持ち出しと引き抜き
- 前職の情報を一切持ち出さない
競業避止義務とは
退職後の一定期間、同業他社に就職しない、同業で独立しない、という約束だ。就業規則に書いてあるか、入社時や退職時の誓約書でサインを求められる。在職中の競業は、雇用契約の当然の義務として禁止されているが、退職後の競業は、契約や誓約書がなければ自由だ。
退職時の誓約書の全体は退職時の誓約書はサインしなくていいかに、入社時の誓約書は入社誓約書のサインは拒否できるかに書いた。
無効になりやすい理由
憲法22条の職業選択の自由がある。退職後にどこで働くかは本人の自由で、会社がそれを制限するには、会社側に守るべき正当な利益(具体的な営業秘密・顧客情報・技術)があり、制限が必要な範囲に限られていることが要る。
裁判では、この条件を厳しく見る。「退職後3年間、同業他社に就職しない」のような、期間が長く、範囲が広く、代償がない誓約書は、一般の社員に対しては無効とされることが多い。
有効と判断される4つの条件
| 条件 | 有効になりやすい | 無効になりやすい |
|---|---|---|
| 期間 | 1年以内。長くて2年 | 3年以上 |
| 範囲 | 地域(◯県内)と業務(◯◯の営業)が限定 | 「同業他社全部」「全国」 |
| 代償 | 退職金の加算、在職中の手当、競業避止の対価が払われている | 何もない |
| 守る秘密 | 具体的な営業秘密・顧客情報・技術に、本人が触れていた | 一般的な業務知識や経験だけ |
| 対象者 | 役職者、営業の主要顧客の担当、技術の中核 | 一般社員 |
4つ全部が揃うことは少ない。1つでも大きく外れていれば、無効の可能性が上がる。
一般社員と役職者の差
| 立場 | 実際 |
|---|---|
| 一般社員 | 同業に転職しても、請求されることはまれ。誓約書は無効とされやすい |
| 営業で主要顧客を担当 | 顧客情報の持ち出しと、顧客の引き抜きが問題になる。転職そのものより、持ち出しが見られる |
| 技術者・開発 | 技術情報と図面とソースの持ち出しが問題。転職そのものは自由 |
| 役職者・役員 | 誓約書が有効とされる可能性が上がる。代償があればさらに。弁護士に相談してから動く |
一般社員の同業への転職は、経験と知識を持って行く行為で、それは制限できない。制限されるのは、会社の物(データ・書類・リスト)を持って行くことだ。
違反した時に起きること
| 会社の手 | 実際 |
|---|---|
| 退職金の減額・返還 | 退職金規程に「競業した場合は減額」と書いてあれば、請求されることがある。裁判では、背信性が高い場合(顧客を丸ごと移した等)に認められる |
| 損害賠償 | 実際の損害の立証が要る。認められる額は限られる |
| 就業の差止め(仮処分) | 秘密の持ち出しが明らかな場合など。一般社員が同業に転職しただけでは認められにくい |
| 警告書・内容証明 | 実際に多いのはこれ。届いても、すぐに従う必要はなく、内容を弁護士に見せる |
現実に請求が来るのは、顧客リストや技術情報を持ち出した時、在職中に顧客に引き抜きの声をかけた時、役職者が主要取引先を丸ごと移した時だ。同業に転職しただけの一般社員に、会社が費用をかけて訴えることはまれだ。
転職先に前職の誓約書を伝えるか
| 状況 | 判断 |
|---|---|
| 同業で、誓約書に期間と範囲が具体的に書いてある | 内定後に伝える。「前職で競業避止の誓約書にサインしている。前職の秘密は一切持ち出していない」 |
| 誓約書が一般的な文言 | 聞かれなければ言わなくていい |
| 転職先から「前職の誓約書はあるか」と聞かれた | 事実を答える |
| 前職調査(リファレンスチェック)がある | 前職に確認が行く。誓約書のことも出る可能性 |
転職先も、前職の秘密を持ち込まれて訴えられることを避けたい。あなたが線を分かっていると伝われば、安心する。前職調査の中身はリファレンスチェックとはに書いた。
サインを求められた時の対処
| 時期 | 対処 |
|---|---|
| 入社時 | 内容を読む。期間と範囲を見る。広すぎるなら「期間と範囲を限定していただけますか」と聞く。サインを拒むと入社に響くこともあるので、無効になりやすい内容ならサインして、線を知っておく |
| 退職時 | サインの義務はない。就業規則に書いてなければ、断れる。「内容を確認してから」と持ち帰り、期間と範囲が広いなら「この内容ではサインできません」。退職金や離職票を人質に取られたら、労働局へ |
| 退職時に「サインしないと退職金を出さない」 | 退職金は就業規則の規定で発生している。サインの有無で止めることはできない。労働基準監督署へ |
退職時に会社が退職を認めない・書類を出さない時の線は退職の引き止めは違法かに書いた。
秘密保持義務との違い
| 競業避止義務 | 秘密保持義務 | |
|---|---|---|
| 何を制限 | 同業への就職・独立 | 会社の秘密情報の持ち出し・漏洩 |
| 有効性 | 条件が厳しく、無効になりやすい | 有効。退職後も続く。不正競争防止法でも守られる |
| 守り方 | 転職そのものは自由 | データ・書類・リストを一切持ち出さない |
競業避止が無効でも、秘密保持は有効だ。同業に転職する人が守るのは、こちらだ。私用のメールやクラウドに会社のデータを送っていないか、退職前に確かめて、あれば消す。
顧客を持って行くことの線
| 行為 | 線 |
|---|---|
| 顧客リスト・名刺データ・見積の履歴を持ち出す | 秘密保持義務違反。不正競争防止法に触れることもある |
| 在職中に顧客に「転職先で取引を」と声をかける | 在職中の競業。懲戒と損害賠償の対象 |
| 退職後に、顧客の方から連絡が来て取引が始まる | 持ち出しがなければ、問題になりにくい |
| 退職後に、記憶している顧客に自分から営業する | 名簿を持ち出していなくても、誓約書の内容と会社の対応で争いになり得る。退職後1年は避ける方が安全 |
線は、会社の物を持って行かないこと、在職中に動かないこと、の2つだ。
相談先
| 状況 | 相談先 |
|---|---|
| 誓約書の内容が有効か知りたい | 弁護士(法テラス・労働問題に強い事務所)。初回相談は30分5,000円前後か無料 |
| 会社から警告書・内容証明が来た | 弁護士。返事をする前に |
| 退職金を止められた・書類を出さない | 労働基準監督署、総合労働相談コーナー |
| 役職者・技術の中核で、同業に転職する | 動く前に弁護士。誓約書と退職金規程を持って |
よくある質問
誓約書にサインしていないが、就業規則に競業避止の規定がある
就業規則の規定も、誓約書と同じ条件で有効性が判断される。規定があるだけで同業への転職が禁止されるわけではない。
同業への転職を、前の会社に言う必要はあるか
ない。退職の理由は「一身上の都合」で足りる。転職先の会社名を言う義務もない。聞かれたら「同じ業界の会社です」で止める。
前の会社の同僚を、転職先に誘っていいか
退職後に、誘われた本人が自分の意思で転職するなら、法的な問題は限られる。ただし、在職中に誘うこと、複数人を一斉に引き抜くことは、損害賠償の対象になり得る。退職後、半年〜1年は避ける。
転職の資料をLINEで無料配布中
競業避止の誓約書の確認表(期間・範囲・代償・秘密・立場の5項目)と、退職前にやる情報の持ち出し確認の表を公式LINEで無料配布している。転職は自由だ。持って行かない、在職中に動かない。この2つを守る。

