「うちは年俸制だから、残業代は出ないよ」。入社時にそう言われて、そういうものかと納得してきた。

納得しなくていい。その説明は、原則として違法だ。年俸制は残業代を消す魔法ではない。仕組みと確認手順を書く。

先に一文で。年俸制でも残業代の支払い義務はあり、「年俸制だから出ない」は原則違法だ。合法なのはみなし分の明示がある場合だけになる。

この記事の要点

  • 年俸制は給与の決め方の制度で、労働時間の規制は外れない
  • 合法になるのは、みなし残業代の時間数と金額が明示されている場合だけだ
  • みなし時間を超えた分は、年俸制でも追加の支払い義務がある
  • 管理監督者の例外は条件が厳しく、肩書だけの管理職には適用されない

原則。年俸制でも残業代は発生する

まず土台の理屈だ。労働基準法の労働時間の規制(1日8時間・週40時間、超えたら割増賃金)は、給与の決め方が月給制か年俸制かに関係なく適用される

年俸制は「年間の給与総額を先に決める」という支払いの約束にすぎない。労働時間の管理義務も、法定時間を超えた分の割増賃金も、月給制と同じに残る。だから「年俸制だから残業代なし」という一言の説明は、それだけでは成立しない。

例外1。みなし残業代が年俸に含まれる場合

合法的に「残業代込みの年俸」が成立するのは、固定残業代(みなし残業代)の中身が正しく明示されている場合だ。成立の条件は3つある。

  1. 時間数と金額の明示。「年俸600万のうち、月30時間分の固定残業代◯万円を含む」のように、契約書・労働条件通知書に書かれていること
  2. 超過分の追加払い。実残業がみなし時間を超えた月は、超えた分の割増賃金が別途払われること。含まれているから青天井、は成立しない
  3. 基礎部分の適法性。みなし分を除いた基礎給与が最低賃金を割らないこと

この3条件のどれかが欠けた「込み」は、未払いの疑いが濃い。みなし残業の一般的な検証はみなし残業45時間以上はやばいのかでも書いた。

例外2。管理監督者。ただし条件は厳しい

もう1つの例外が管理監督者(労基法上の管理職)だ。該当すれば時間外の割増賃金の対象外になるが、該当の条件は肩書ではなく実態で判定される。

  • 経営に近い重要な職務と責任を持つか
  • 出退勤の自由があるか
  • 地位にふさわしい待遇か

「マネージャー」の肩書で年俸制、でも出退勤は管理され、権限も一般社員と大差ない。この状態は名ばかり管理職で、管理監督者には該当しない可能性が高い。年俸制×肩書の合わせ技で残業代を消すのは、古典的な違法パターンだ。

確認の手順。今日からできる3ステップ

手順1、契約書類を出す。雇用契約書・労働条件通知書・就業規則の賃金規程で、みなし残業の記載(時間数・金額)を探す。記載がなければ、その時点で「込み」の主張は根拠を失う。

手順2、実労働時間の記録を作る。出退勤の時刻をメモ・アプリ・メールの送信時刻などで記録する。未払いを取り返す時、記録の有無が結果を分ける

手順3、差額を概算して相談する。みなし超過分や、そもそも払われていない割増分を概算し、労基署か労働問題に強い弁護士の無料相談へ持ち込む。未払い賃金の請求権には時効(当面3年)があるので、疑いを持ったら放置しないことだ。

会社と揉めるのが不安なら、在職のまま請求せず、転職を決めてから精算する順番もある。給料未払い全般の動き方は給料が振り込まれない時の対応が担当だ。

よくある誤解

「年俸で高い給料をもらっているから、残業代を求めるのは図々しい」。高年俸と残業代は別の権利だ。みなしの明示がなければ、年俸がいくらであっても超過分の支払い義務はある。図々しいかどうかという感情の問題ではなく、契約と法律の問題として扱っていい。

「裁量労働制と年俸制は同じもの」。別物だ。裁量労働制は労働時間の算定方法の制度で、導入には厳格な手続きと対象業務の限定がある。年俸制と言われているだけの職場に、裁量労働制の効果は生まれない。

よくある質問

転職の面接で、年俸制の残業代の扱いを聞いても大丈夫ですか?

聞いていいし、聞くべき項目だ。「年俸にみなし残業は含まれますか。何時間分ですか」は失礼な質問ではなく、契約条件の確認にすぎない。ここで曖昧な答えしか返らない会社は、入社後も曖昧に運用する可能性が高い。

未払いを請求したら、会社に居づらくなりませんか?

在職中の請求は現実問題として気まずさが出る。だから記録だけ確実に取り続け、退職を決めた後や退職後に請求する人が実際には多い。請求権は退職しても消えない。記録が武器で、タイミングは選べる。

転職の資料をLINEで無料配布中

残業代セルフチェック表(みなしの3条件と記録の付け方)を公式LINEで無料配布している。年俸制という言葉に、あなたの残業代を消す力はない。

LINEで無料の資料を受け取る