退職を決めたら有給が20日残っていた。買い取ってもらえるのか。そもそも買い取りは違法と聞いた気もする。どっちなのか。
先に正確に言う。原則は違法。ただし例外が3つあり、退職時の残日数はその1つだ。そして例外でも、会社に買い取る義務はない。この三段の仕組みを順にほどく。
有給の買い取りとは、休暇を与える代わりに会社が金銭を支払う扱いのことで、原則として違法とされている。
この記事の要点
- 事前の買い取り(休ませない代わりに金を払う)は原則違法だ
- 例外は3つ。退職時の残り・時効で消える分・法定超過の付与分
- 例外に当たっても、買い取りは会社の義務でなく任意だ
- 実務の第一選択は買い取りでなく、退職日からの逆算消化になる
原則。なぜ買い取りは違法なのか
有給休暇の目的は、労働者を実際に休ませることにある。金を払う代わりに休ませない買い取りを認めると、この目的が壊れる。だから、在職中の有給をあらかじめ買い取って休みをなくす扱いは、労働基準法の趣旨に反して違法とされている。
「忙しいから有給は買い取りで」という会社の運用は、一見あなたに金が入る分ましに見えて、休む権利を金で消す違法な取引だ。この原則をまず押さえる。有給を取らせない圧力の問題は有給を取らせてくれない会社は違法だで書いた通り、取得妨害と買い取りは同じ根から生えている。
例外3つ。休む権利を奪わない買い取り
原則違法の中で、例外的に許されるのが次の3つだ。共通点は、買い取っても休む権利を奪ったことにならないことにある。
例外1、退職時に残った日数。退職すれば以後の労働日がなく、休む権利は物理的に使えなくなる。使えない権利の清算だから、買い取りが許される。
例外2、時効で消滅する分。有給の請求権は付与から2年で時効消滅する。消える分の買い取りは、権利を奪うのでなく、消えるものへの補償になる。
例外3、法定を上回る付与分。法律の基準(6ヶ月で10日〜)を超えて会社が独自に与えた日数は、そもそも法定の権利でないため、会社の制度として買い取れる。
ここまでが法律の整理だ。そして実務では、次の一点がもっと大事になる。
よくある誤解。「退職時は買い取ってもらえる」
例外の存在から、「退職時の残有給は買い取り請求できる」と誤解されやすい。正確にはこうだ。買い取りが許される=会社が買い取らなければならない、ではない。
退職時の買い取りは会社の任意で、就業規則や慣行に買い取り制度がある会社を除けば、請求する権利まではない。「買い取りは違法なので」と断る会社の説明は半分だけ正しく、正しくは「例外として可能だが、うちは応じない」だ。
だから戦い方の順番が決まる。第一選択は買い取り交渉ではなく、全日数の消化になる。消化は買い取りと違って、会社の任意ではなくあなたの権利だからだ。
実務の本線。退職日からの逆算消化
残り20日を使い切る形は、退職日の設定で作る。最終出社日の後ろに有給を並べ、消化しきった日を退職日にするのが定石だ。
- 残日数を確認する(給与明細か勤怠システムで見える)
- 引き継ぎ完了の目安日=最終出社日を置く
- その翌日から残日数分を消化し、消化最終日を退職日にする
具体的な計算手順は退職日を有給から逆算する計算に書いた。会社が消化を渋る場合も、時季変更権は退職日を越えて行使できないため、退職前の消化は実務上ほぼ止められない。
その上で、入社日の都合などで消化しきれない日数が出る場合に、初めて買い取りの相談を出す。「消化しきれない○日分について、買い取りのご相談は可能でしょうか」。応じる会社もあれば断る会社もあるが、消化の権利を土台に持った交渉は、丸腰の買い取り依頼より通りやすい。有給を残したまま辞める損の大きさは有給を残して退職する損で数字にした通りだ。
買い取り金額の相場。決まりはない
買い取りに応じてもらえる場合の金額も、法律の定めはなく会社の規程次第になる。基準給与の日額をそのまま使う会社もあれば、一定額で固定する会社もある。事前に「1日あたりの買い取り額はいくらですか」と確認し、消化した場合の給与額と比べることだ。買い取り額が日額より大きく低いなら、消化の方が単純に得になる。
なお、買い取り分は給与や退職所得として課税の対象になる。手取りベースの比較まで見て判断すれば、この論点で迷うことはもうない。制度の細部や税務の扱いは変わりうるため、金額が大きい場合は最新の公的情報や税務署の案内で確認してほしい。
よくある質問
会社の就業規則に「退職時の有給買い取り制度」があります。金額に不満がある場合は交渉できますか?
規程に基準額があるなら、それを上回る交渉は難しいのが実情だ。その場合も消化との選択が残っているなら、日額の高い方を選ぶ形で実質の交渉ができる。
時効で消えそうな有給を、会社が勝手に買い取って消化扱いにしてきます。
本人の同意なく、休む選択肢を消して買い取りに置き換える運用は、原則違法の側に戻る話だ。消化を希望する意思をメールで伝え、記録を残した上で、動かなければ労基署の相談対象になる。
パートやアルバイトでも、退職時の有給買い取りの話は同じですか?
同じだ。有給は労働日数に応じてパート・アルバイトにも比例付与されており、退職時の残日数の扱い(消化が権利・買い取りは会社の任意)も正社員と変わらない。雇用形態を理由に消化を断る運用の方が問題になる。
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