退職を伝えたあと、「引き継ぎをちゃんとしてから」と言われる。でも、どこまでやれば「ちゃんと」なのかは誰も教えてくれない。

線を引く。引き継ぎとは、あなたが抜けても業務が止まらない状態を作ることだ。完璧な資料を作ることではない。

先に一文で。引き継ぎとは業務・相手・データ・暗黙のルールの4点を後任が動ける形に残すことで、法的な義務ではないが、退職金や離職票のやり取りが残る以上、できる範囲でやっておくのが実利になる。

この記事の要点

  • 目的は完璧な資料でなく、止まらない状態
  • 範囲は業務・相手・データ・暗黙のルールの4つ
  • 抜けやすいのは4つ目。ここで後任が詰まる
  • 後任がいない場合は、資料を厚くして関係者に配る

引き継ぎの範囲は4つに分かれる

1、業務そのもの|手順、頻度、締切、使うシステム。「毎月5日までに◯◯を△△へ提出」の粒度で書く

2、相手|社内の関係者と、顧客・取引先の担当者名。経緯まで残す(前任がトラブルを起こした、値引きの約束がある、など)

3、データ|ファイルの置き場所、共有権限、アカウントとログイン方法。個人フォルダに置いたままの資料は必ず移す

4、暗黙のルール|この案件は先に部長に通す、月末はこの作業が混む、この人にはメールでなく電話。ここが一番抜ける

1〜3は資料に残しやすいが、4は自分にとって当たり前になっていて、書き出すという発想自体が出ない。後任に「困りそうなこと」を聞いてもらう時間を1回作ると、ここが埋まる。

進める順番

  1. 業務の棚卸し|まず一覧を作る。粒度は粗くていい
  2. 優先順位をつける|止まると誰かが困る順に並べる
  3. 上位から資料化|下位は口頭とメモで足りる
  4. 後任と一緒に1周やる|これが一番効率がいい
  5. 関係者へ連絡|社内外に後任の名前を通す

資料の作り方と分量は引き継ぎ資料の作り方の記事、どこまで書くかの線引きは引き継ぎ資料はどこまで必要かの記事で書いた。

後任が決まっていない場合

これは珍しくない。やることは変わる。

  • 資料を厚くする|口頭で補えないぶん、手順を丁寧に書く
  • 上長に渡す|受け取り手を人でなく役職にする
  • 関係者に共有する|自分の上長だけに渡すと、退職後に紛失する
  • 緊急連絡の窓口を明記する|「この件は◯◯部の△△さん」まで書いておく

後任がいないことはあなたの責任ではない。採用と配置は会社の仕事だ。ここで残業を増やしてまで背負う必要はない。

法的にはどうなのか

引き継ぎを直接義務づける法律はない。ただし就業規則に定めがある会社は多く、労働契約上の誠実義務という考え方もある。

引き継ぎ不足だけを理由に損害賠償が認められるのは極めて例外的で、故意の業務妨害やデータの削除といった悪質な事情がある場合に限られる。

とはいえ、退職金の支給、離職票の発行、源泉徴収票の送付など、退職後にも会社とのやり取りは残る。対立を作らないことが、そのまま自分の得になる。

終わらないまま退職日が来たら

これも普通に起きる。やることは3つだ。

  • 残っている項目を一覧にして渡す|「終わっていない」ことを可視化するだけで、責任の所在が変わる
  • 退職日は動かさない|終わらないことを理由に延長を求められても、応じる義務はない
  • 退職後の連絡は範囲を決める|「メールで、月内まで」程度にしておく

延長を迫られた時の断り方は引き継ぎが終わらないと言われた時の記事で書いた。

よくある誤解

「引き継ぎが終わるまで辞められない」。終わらない。退職の意思表示から民法上は2週間で契約は終了する(就業規則の定めがある場合も、それ自体で退職を止める効力はない)。

「完璧な資料を残すのが誠意」。誠意は分量でなく、後任が動けるかで測られる。50ページの資料より、優先順位のついた5ページのほうが使われる。

消化の全体の流れを先に押さえる

日数の確認から最終出社日の逆算、伝える順番までを通しで見ておくと、途中で止まらない。有給消化とはの記事で整理した。

受ける側に回った場合

資料がない、前任がもういない、という状態を渡されることもある。その時にやるのは全部を理解することでなく、把握できている範囲と不明な範囲を分けて上長に共有することだ。手順は引き継ぎがぐちゃぐちゃな時の記事で書いた。

よくある質問

引き継ぎ期間はどれくらい必要ですか?

業務量によるが、一般的な事務・営業職なら2〜4週間で足りることが多い。管理職や属人化した専門職は1〜2か月。退職日から逆算して、資料化に半分、後任との並走に半分を当てるのが目安になる。

有給消化と引き継ぎが重なる時はどうしますか?

有給の取得は権利なので、消化を前提に逆算する。退職日から有給日数を引いた日が、実質の最終出社日だ。引き継ぎはその日までに終わる形で組む。会社側に「有給中に対応してほしい」と言われても、応じる義務はない。

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