50万円を振り込んだ日のことを、いまでも覚えている。貯金はほとんど消えた。保証は何もなかった。それでも、あれが私のキャリアの起点になった。

今日は仕組みの話ではなく、私の話をする。フリーターだった頃、何を考えて、何が怖くて、なぜ払ったのか。同じ場所で止まっている人に届けばいいと思って書く。

この記事の要点

  • 独学で止まった人が買うべきは、教材ではなく質問できる環境と締め切りだ
  • スクールの価値は中身より、逃げられない状態を作れるかで決まる
  • 説明できる期間になること自体が、次の選考での武器になる
  • いまは教育訓練給付金があり、条件を満たせば費用の一部が国から戻る

1社目は、美容業界のブラック企業だった

新卒で入ったのは、美容業界の会社だった。残業代は出なかった。休日出勤は当たり前だった。パワハラもあった。

最初の数ヶ月は、こういうものだと思っていた。社会人とはこういうものだ、まだ自分が未熟だから辛いのだ、と本気で信じていた。いま思えば、あれは基準値が壊れていく過程だった。

体が先に音を上げた。眠りが浅くなって、休みの日は動けなくなった。それでも「ここで辞めたら逃げたことになる」という理屈で自分を縛っていた。辞めるという選択肢を、自分の頭の中から消していた。

1年以内に辞めた。辞めると決めてからは、あっけないほど早かった。振り返って後悔しているのは、辞めたことではない。辞めるまでに時間をかけたことの方だ。

辞めた後、何もなかった

問題は、辞めた後だった。

手元に残ったものが、何もなかった。美容業界で1年働いた経験は、外に出た瞬間に説明しにくいものになった。資格もない。実績と呼べるものもない。職務経歴書に書ける行が、ほとんどなかった。

カフェでバイトを始めた。ポスティングもやった。生活は回った。回ってしまうのが、逆にきつかった。このままでも生きてはいける。でも、5年後も同じことをしている自分が、はっきり想像できた。

同級生は正社員として働いていて、会えば仕事の話になった。自分だけが時給で働いているという感覚は、笑って流せるものではなかった。親には申し訳なかった。将来の話をされるのが、一番苦手だった。

あの時期の「情けない」という感情は、いまでも呼び出せる。だから、いま同じ場所にいる人に「気にするな」とは言わない。あれは消えないし、消そうとしても無駄だ。

何をすればいいのかが、分からなかった

動かなければいけないことは分かっていた。分からなかったのは、何に向かって動けばいいのかだった。

求人サイトを開いても、応募できるものが見つからない。実務経験を求める求人ばかりで、自分に当てはまるものがない。探せば探すほど、自分が必要とされていない証拠を集めている気分になった。

そんな中で、Web業界という選択肢が視界に入ってきた。理由は正直に書くと、格好いいと思ったからだ。手に職という言葉に惹かれたし、パソコンで完結する仕事なら、あの職場のような環境からは遠いだろうとも思った。深い分析があったわけじゃない。

ただ、始めようとして詰まった。独学の教材を開いて、数日で止まった。何が分からないかも分からないし、聞ける相手もいない。締め切りもない。進んでいるのか止まっているのかすら、自分では判定できなかった。

50万円を払うと決めた日

渋谷にあるWebスクールの説明会に行った。HTMLとCSS、Photoshopなどを学べる、と言われた。費用は50万円だった。

正直に書くと、その場では決められなかった。バイトで貯めた金の、ほぼ全部だった。払ったところで転職できる保証はどこにもない。詐欺かもしれないという疑いもよぎった。帰り道でずっと計算していた。

最終的に決めた理由は、2つだった。

1つ目。独学で止まった事実があったこと。私は自分で走れる人間ではないと、数日で証明されていた。足りないのは教材ではなく、質問できる相手と、逃げられない状況だった。それを金で買うのだと考えたら、意味のある出費に思えた。

2つ目。このままバイトを続けた場合の5年後が、はっきり見えたこと。50万円を守って、5年後も同じ場所にいる。その未来の方が、明らかに高くつくと思った。

払った。手が震えたのを覚えている。

学んだ内容より、効いたもの

スクールに通って、実際に効いたものを書く。カリキュラムの中身ではなかった。

一番大きかったのは、「50万払ったから逃げられない」という状態だった。独学で数日で止まった私が、最後まで通えたのは、この一点に尽きる。強制力を金で買ったという言い方が、たぶん一番正確だ。

次に大きかったのが、質問できる相手がいたこと。詰まった時に聞ける環境があると、止まる時間が劇的に短くなる。独学の時に私を止めていたのは難易度ではなく、詰まったまま放置される時間だった。

そして、説明できる期間になったこと。面接で「この期間は何を」と聞かれた時、「フリーターをしていました」ではなく「Webの勉強をして、この業界に入るために動いていました」と言えた。中身が立派だったからではない。答えを持っていたから、そこで会話が止まらなかった。

その後、どうなったか

未経験でWeb業界に入った。ECサイトの運営とWebデザインをやる中小企業だった。大企業でもなければ、給料が高いわけでもなかった。それでも、あの1社目に入れたことが全部の起点になった。

そこで副業のブログを始めた。月数千円から、数万円になった。次に大手系企業のUIデザイナーとして転職して、2年後にディレクターへ上がった。4回目の転職では、あえて年収を下げて大阪のWebのホワイト企業に移った。そこで3年かけて信頼を作って、男性で1年の育休を取り、沖縄に移住してフルリモートで働いた。育休の前後で匿名のSNSアカウントを育てて、副業収入が給与を超える月も出た。復帰後に退職して、いまフリーランス4年目だ。

全部、あの50万円の先にある。才能の話ではない。止まっていた場所から、1回だけ強引に動いたという話だ。

いまの人へ。あなたは50万払わなくていいかもしれない

ここが、この記事で一番伝えたいところだ。

私は50万円を全額自腹で払った。だが、いまは制度がある。

教育訓練給付金を使えば、条件を満たす講座なら費用の一部が国から戻る。専門実践教育訓練に該当する講座なら、受講と資格取得・就職などの条件を満たすことで、相当な割合が戻ってくる仕組みになっている。離職中なら、公共職業訓練という受講料が原則無料の道もある。

手続きには順番がある。受講を開始する前にハローワークで手続きをしていないと、対象講座に通っても給付は受けられない。先に申し込んでから制度を調べた人が、一番損をする。

条件と手順は教育訓練給付金を正しく使い倒せに全部まとめた。プログラミングスクールを検討している人はプログラミングスクールに給付金を使う前にも読んでほしい。

同じ扉が、5分の1の値段で開くことがある。私が払った50万円のうち、かなりの部分は「知らなかった」という理由で払ったものだ。あなたには、申し込む前に知っていてほしい。

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よくある質問

スクールに大金を払う価値はありますか?

人による。ただ、独学で止まった経験がある人にとっては、質問できる相手と締め切りを買う価値がある。金額そのものより、それで完走できるかで判断すべきだ。

いま同じことをするなら、いくら必要ですか?

条件を満たせば教育訓練給付金で費用の一部が戻る仕組みがある。私が払った当時は全額自腹だったが、いまは制度を確認してから申し込むべきだ。

未経験から異業種に入るのに、スクールは必須ですか?

必須ではない。ただし、経歴に何もない状態で応募するより、学んだ証拠を持っている方が話が早いのは事実だ。

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