有給消化が丸々1ヶ月ある。転職先は「早く来てほしい」と言う。消化中はどうせ暇なんだから、こっそり入社してしまえば、給料が二重にもらえるんじゃないか。

その考えが浮かぶのは自然だが、先に答えを言う。有給消化中の入社は二重在籍になり、保険の手続きで機械的に発覚する。入社日は退職日の翌日以降。これが原則だ。仕組みと、入社を早めたい時の正しい調整を書く。

この記事の要点

  • 有給消化中も前職の在籍は続いている。入社すると二重在籍になる
  • 雇用保険は二重加入できず、転職先の手続きが通らずに発覚する
  • 前職の兼業禁止規定・転職先への信用問題という二重のリスクがある
  • 入社を早めたいなら、退職日の前倒しか入社日の再調整で解く

有給消化中のあなたは、まだ前職の社員だ

まず前提を固める。有給消化は、出社していないだけで雇用契約が続いている期間だ。退職日までは前職の社員であり、社会保険も雇用保険も前職で加入が続いている。

だから消化中に転職先へ入社すると、法律上の二重在籍が成立する。二重在籍そのものを直接禁じる法律はないが、実務では次の3点が衝突する。

1、雇用保険が通らない。雇用保険は1人1本で、二重加入ができない。転職先が資格取得の手続きをすると、前職の資格がまだ生きているためにエラーになり、その場で在籍の重複が見える。隠したままにできる仕組みがそもそもない。

2、社会保険の二重加入手続き。厚生年金・健康保険は二重加入の状態になると、保険料の按分手続き(二以上事業所勤務)が発生する。この手続きは両社の事務を巻き込むので、両社が知らないままでは進まない。

3、前職の就業規則。多くの会社の就業規則には兼業・二重雇用の制限があり、在籍中の他社入社はここに触れる。最後の最後で懲戒の話を持ち出される燃料を渡すことになる。

つまり、バレるかどうかの賭けですらない。事務手続きがそもそも通らない話だ。

入社を早めたい時の正しい解き方。3手ある

転職先から入社日の前倒しを求められた、あるいは自分が早く移りたい。この場合の正規ルートは3つだ。

手1、前職の退職日を前倒しする。有給を全部使わず、退職日自体を早める。使わなかった有給は消えるのが原則だが、退職時に限っては買い取りの交渉余地がある有給買い取りの違法と例外で書いた)。買い取りが成立すれば、金銭面の損を抑えつつ入社を早められる。

手2、転職先に入社日の再調整を頼む。「前職の退職日が◯日のため、入社は◯日以降でお願いしたい」と伝える。有給消化を理由にした1〜2週間の調整を拒む企業はほぼない。入社日交渉の相場感は入社日の調整はいつまで可能かが担当だ。

手3、有給の一部だけ使う。全部消化に固執せず、半分使って退職日を中間に置く。消化日数と入社日の逆算は退職日から逆算する有給消化の計算でやれる。

どの手も、両社に事実を伝えた上での調整だ。調整は歓迎され、無断だけが事故になる。

例外はあるか。あるが、条件つきだ

二重在籍が絶対にできないわけではない。両社が事情を知って了解している場合、たとえば前職の退職日と転職先の入社日が数日重なることを双方が把握して、保険の手続きもそれに合わせて処理する形なら、実務上は成立しうる。

ただしこれは、あなたが隠れてやる話ではなく、両社の人事が了解して事務処理する話だ。あなたの独断で作れる例外ではない。原則は変わらない。入社日は退職日の翌日以降。迷ったらこれに戻る。

なお、消化中のアルバイトや副業はまた別の論点で、前職の就業規則の副業規定に従う話になる。転職先での勤務とは切り分けて考えてほしい。

よくある誤解

「有給消化中は実質退職済みだから自由だ」。契約上は在籍中だ。自由なのは出社義務がないことだけで、社員としての地位・保険・規則の適用は続いている。消化中に前職から出社を求められるケースの扱いは消化中に出社を求められた時で書いた。

「給料の二重取りは黙っていれば分からない」。給与は保険・税の記録と連動していて、年末調整や住民税の計算でも重複期間は姿を現す。事務の網の目は、あなたが思うより細かい。

よくある質問

退職日と入社日の間を1日も空けずにつなげるべきですか?

つなげるのが理想だ。1日でも空くと、その期間の健康保険・年金を自分で手続きする必要が出る(国保への切り替えか任意継続)。退職日の翌日を入社日にすれば、保険は切れ目なく移る。月末退職・翌月1日入社が定番なのはこのためだ。

転職先に、前職の有給消化期間を正直に言うべきですか?

言っていい。「退職日は◯日で、それまでは有給消化期間です」は普通の情報共有で、隠す理由がない。むしろ入社日調整の根拠として使える。消化中に入社前の手続きや準備(書類提出など)を進めるのは在籍と衝突しないので、そこは協力すればいい。

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