有給消化に入って1週間。上司から連絡が来た。「引き継ぎが回っていない。数日出社してくれないか」。せっかくの休みに、あの職場へまた行くのか。

先に法律の結論を言う。取得済みの有給を会社の都合で取り消すことはできない。出社要請に応じる義務は、原則ない。その上で、角を立てずに断る方法と、応じる場合の条件の付け方まで書く。

この記事の要点

  • 取得が確定した有給の取り消しは、会社側からはできない
  • 時季変更権は退職前の消化には実質使えない。代わりの日がないからだ
  • 断る時は、義務の主張でなく引き継ぎ資料への誘導で返すと角が立たない
  • 応じるなら、有給の扱い(残すか買い取るか)を先に合意する

法的な整理。なぜ応じる義務がないのか

会社が有給の日程に口を出せる唯一の権利は時季変更権だ。事業の正常な運営を妨げる場合に、有給を「別の日に変えてもらう」ことができる。

ここで大事なのは、時季変更権は変更先の日が存在することが前提の権利だということだ。退職日までの全日程を消化に充てている場合、変更する先の日がもう存在しない。だから退職前の有給消化には、時季変更権は実質使えないという整理が確立している。

取得が確定した後の有給を、会社が一方的に取り消して労働日へ戻すこともできない。つまり消化中の出社要請は、法的な命令ではなくお願いだ。お願いには、応じる自由と断る自由の両方がある。

そもそも消化の申請段階で拒まれている人は、この記事の一歩手前の話なので有給を取らせてくれない時の対処から読んでほしい。

断り方。義務の話をせずに断る

「法的に義務はありません」と返すのは、正しいが角が立つ。実務ではこう返す方がきれいだ。

「申し訳ないのですが、その期間は予定が入っており出社が難しいです。引き継ぎ資料の◯◯に手順をまとめてありますので、まずそちらをご確認いただけますか。資料で分からない点があれば、チャットで補足します」

型は3層になっている。予定を理由に断る(法律論を出さない)、引き継ぎ資料へ誘導する、軽い質問対応の窓は開けておく。この形なら、あなたは非協力な人ではなく、資料と限定的な対応で協力している人になる。

引き継ぎ資料をどこまで作る義務があるかは引き継ぎ資料はどこまでやるかで書いた通りで、在職中に合理的な資料を残してあれば、あなたの義務の大半は果たされている

応じる場合。条件を先に合意する

どうしても、という事情に応じる判断もある。その場合は善意で無償出社せず、先に扱いを合意する

  • その日の有給をどうするか。出社日を労働日に戻して有給を1日残すのか、残した1日を買い取るのか、退職日を1日ずらすのか
  • 合意を文字で残す。「◯日は出社し、その分の有給1日は買い取りとする、という理解でよいですか」とメールで確認する

ここを曖昧にして出社すると、有給を使ったまま働いた形になり、ただ働きが成立してしまう。買い取りの可否と相場は有給買い取りは違法かの整理が担当だ。

なお、電話・チャットの質問対応は出社より軽い問題だが、線引きは同じ発想でいい。資料に書いた範囲の確認には短く答える、作業が発生する依頼は断る。善意の上限を先に決めておくと、ずるずる働かされない。

要請がしつこい・脅しに変わった場合

「出社しないなら退職を認めない」「損害賠償を請求する」。要請がこの領域に入ったら、話し合いのステージは終わっている。

  • 退職の効力は会社の承認と無関係に、意思表示の到達から2週間で生じる
  • 適法な退職と有給取得に対する損害賠償は、まず成立しない
  • やり取りを記録に切り替え、労働基準監督署への相談材料を積む

自分で対応し続ける消耗が大きいなら、残りの期間ごと代行に任せる手がある。

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よくある誤解

「会社が忙しいなら、時季変更権で出社させられても仕方ない」。退職前の消化には変更先の日がないため、この権利は実質行使できない。繁忙は気の毒だが、それは人員配置の問題で、あなたの休暇の問題ではない。

「消化中の出社を断ると、退職金や評価で報復される」。正当な有給取得を理由にした不利益な扱いは、法律で禁じられている。退職金の減額をほのめかされたら、それ自体が記録すべき問題発言になる。

よくある質問

消化中に会社の飲み会(送別会)に呼ばれました。これも断れますか?

業務ですらないので、完全に自由だ。行きたければ行けばいいし、気が進まなければ「予定があるので」で終わる。送別会への出欠が退職の手続きに影響することはない。

消化中に転職先で働き始めるのは、出社要請を断る理由になりますか?

そもそも消化中の入社は二重在籍の問題があるため、原則できない(消化中の入社の可否で書いた)。転職先の入社日は前職の退職日の翌日以降に置くのが正しく、その形なら出社要請と衝突する事情自体が生まれない。

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