会社で不正を見つけた。残業代の改ざん、検査データの書き換え、法令違反の指示。言えば消される気がして、黙っている。通報して守られるなら言いたいが、その保証がない。

保証は法律にある。2026年12月から、通報後1年の解雇は理由が推定される。3つの通報先と保護の条件、そして改正の中身を書く。

先に一文で。公益通報者保護法は通報先を①事業者②行政機関③報道機関等の3つに分けて保護の条件を変えており、2026年12月1日施行の令和7年改正で、通報後1年以内の解雇・懲戒は公益通報を理由とすると推定され(立証責任の転換)、通報を理由の解雇・懲戒には直罰、フリーランスも保護の対象に入る。

この記事の要点

  • 通報先は3つ。内部通報は「思料」で足りる(証拠まではいらない)
  • 保護|解雇その他の不利益な取扱いの禁止、損害賠償請求の制限
  • 2026年12月1日|通報後1年以内の解雇・懲戒は理由が推定される
  • 通報を理由の解雇・懲戒に直罰(法人は3,000万円以下の罰金)
  • フリーランスも対象に(業務委託終了から1年以内も)

3つの通報先と条件

通報先呼び方必要な条件
①事業者(会社の窓口・上司)内部通報(1号通報)不正があると思料すること
②行政機関(労基署など)外部通報(2号通報)相当の理由があること(目撃・証拠)または思料+氏名等を記載した書面の提出
③報道機関等外部通報(3号通報)相当の理由+内部通報では不利益を受けると信ずる相当な理由、生命身体への危害の恐れ等

内部通報は「思料」で足りる。確信も証拠も要らない。ここが一番使いやすい入口になる。労基法違反なら労働基準監督署が直接の窓口になる(労基署への相談の流れの記事)。

対象になる通報

  • 労働者・派遣労働者・退職者・役員・フリーランス等
  • 不正の目的でなく
  • 勤務先や取引先における対象法律(約500本)の刑事罰・過料の対象となる不正行為を通報すること

対象法律は、国民の生命・身体・財産等の保護に関する法令。労働基準法、労働安全衛生法、食品衛生法、金融商品取引法などが含まれる。

保護の中身

保護内容
解雇その他の不利益な取扱いの禁止解雇、懲戒、降格、減給、配置転換など
損害賠償請求の制限事業者が通報者に損害賠償を求めることの制限
通報後1年以内の解雇・懲戒の推定(2026年12月〜)公益通報を理由とするものと推定される

2026年12月1日施行の改正(令和7年法律第62号)

1. 不利益な取扱いの抑止・救済の強化

  • 通報後1年以内の解雇・懲戒は、公益通報を理由としてされたものと推定(立証責任の転換)。外部通報の場合は、事業者がそれを知った日から1年以内
  • 公益通報を理由として解雇・懲戒をした者に直罰6月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金、法人には3,000万円以下の罰金
  • 一般職の国家公務員等への不利益な取扱いの禁止と直罰

推定が働くと、会社側が「通報とは関係ない理由だ」と立証しなければならなくなる。ここが実務上、最も大きい変化だ。

2. 公益通報者の範囲拡大

  • 事業者と業務委託関係にあるフリーランス
  • 業務委託関係が終了して1年以内のフリーランス

通報を理由とする業務委託契約の解除その他不利益な取扱いが禁止される。フリーランスの定義はフリーランス法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)2条を引用している(フリーランス法で発注者に課される義務の記事)。

3. 通報を阻害する要因への対処

  • 事業者が正当な理由なく「公益通報をしない」という合意を求める行為等の禁止。違反してされた合意は無効
  • 正当な理由なく通報者を特定することを目的とする行為(通報者探し)の禁止

4. 体制整備の徹底

  • 従事者指定義務に違反する事業者(300人超)に、勧告に従わない場合の命令権と命令違反時の刑事罰(30万円以下の罰金、両罰)
  • 立入検査権限の新設。報告懈怠・虚偽報告・検査拒否にも刑事罰
  • 体制整備義務の例示として、労働者等への周知義務を明示

会社の窓口設置義務

規模義務
常時使用する労働者 300人超義務(従事者の指定、窓口の設置、内部規程、周知)
300人以下努力義務

従事者には通報者を特定させる情報の守秘義務があり、違反は30万円以下の罰金。だから、300人超の会社なら社内の窓口を使う選択肢が現実的にある。

動く順番

  1. 記録を集める(日時、指示の内容、書類、メール、チャット。通報の前に集める)
  2. 会社の内部通報窓口を確認する(就業規則・イントラ。300人超なら必ずある)
  3. 内部通報が難しい/握り潰されるなら、行政機関へ(労基署、所管省庁)
  4. 通報の日付を残す(2026年12月以降は、通報後1年以内の解雇・懲戒に推定が働く)
  5. 不利益を受けたら、都道府県労働局の総合労働相談コーナー、消費者庁の公益通報者保護制度相談ダイヤル

記録は在職中にしか集められない。辞めた後に取りに戻れない(残業代が出ないのは違法の記事)。

懲戒処分をちらつかされたら

通報の後に懲戒を告げられた場合、その処分自体が有効かを別に見る。懲戒が有効になるには就業規則の定めと周知、事由該当、相当性、手続の公正が要る(懲戒処分の重さは6段階あるの記事)。解雇なら予告手当の扱いも確認する(解雇予告手当の記事)。

私の場合

私の1社目は美容業界のブラック企業で、残業代なし・休日出勤・パワハラが日常だった。当時の私は、それが違法だという言葉すら持っていなかった。だから通報という発想がなく、1年以内に辞めることを選んだ。辞めるのは正しい選択のひとつだ。ただ、辞めるにしても、記録を残しておけば失業保険の離職理由が変わることがある(会社都合と自己都合の違いの記事)。黙って辞めるのと、記録を持って辞めるのでは、その後の条件が違う

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よくある誤解

「証拠がないと通報できない」。内部通報は「思料すること」で足りる。確信も証拠も要らない。

「通報したら報復される」。禁止されている。2026年12月からは、通報後1年以内の解雇・懲戒は理由が推定され、した側に刑事罰もつく。

よくある質問

匿名で通報できますか?

会社の窓口は匿名を受け付けているところが多い。ただし匿名だと調査が進みにくく、不利益を受けた時の因果関係も示しにくい。

退職した後でも通報できますか?

できる。退職者も公益通報者に含まれる。2026年12月からは、業務委託が終了して1年以内のフリーランスも対象になる。

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