業務委託として契約したのに、毎日9時から先方のオフィスに行き、社員と同じように指示を受けて働いている。残業代はなく、有休もなく、社会保険もない。これは本当に業務委託なのか。
契約書の名前は関係ない。契約書が業務委託でも、実態が雇用なら労働者だ。判断の要素と、労働者と認められたら何が変わるかを書く。
先に一文で。偽装請負かどうかは契約書でなく実態で判断され、①諾否の自由②具体的な指揮命令③場所と時間の拘束④代替性の有無⑤報酬が時間単位か、の5要素と補強要素で総合的に見られ、労働者と判断されれば残業代・有休・社会保険・解雇の制限・労災がまとめて適用される。
この記事の要点
- 判断は契約書の名前でなく実態
- 5要素|諾否の自由/具体的な指揮命令/場所と時間の拘束/代替性/報酬が時間単位か
- 労働者なら|残業代(3年分)・有休10日・社会保険・解雇の制限・労災
- 証拠は日々の指示のチャットと勤怠の記録
- 相談先|労基署/フリーランス・トラブル110番/総合労働相談コーナー
労働者性の判断要素
| 要素 | 労働者に近い | 事業者に近い |
|---|---|---|
| 諾否の自由 | 依頼を断れない | 断れる |
| 指揮命令 | 手順・進め方まで指示される | 成果物だけ決まっている |
| 場所と時間 | 常駐、始業終業が決まっている | 自分で決められる |
| 代替性 | 本人以外は不可。補助者も使えない | 他の人に任せられる |
| 報酬 | 時間を単位に計算(時給・日給・月給) | 成果物・案件単位 |
補強要素として、機械・器具を自分で負担しているか、報酬が同種の労働者に比べて著しく高いか、他社の仕事を受けられるか(専属性)も見られる。
派遣と請負の区分の基準
厚生労働省は、請負として認められるために、発注先が自ら次を行っているかを見るとしている。
- 業務の遂行に関する指示その他の管理を自ら行っているか
- 労働時間等に関する指示その他の管理を自ら行っているか
- 企業における秩序の維持確保等のための指示その他の管理を自ら行っているか
- 資金の調達・支弁を自ら行い、法律上の責任を自ら負っているか
- 単なる肉体的な労働力の提供でないか(機械資材、専門的な技術・経験)
発注元の社員が直接指示を出している時点で、請負の形は崩れている。
労働者と判断されたら変わるもの
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 残業代 | 2割5分増(月60時間超は5割増、深夜2割5分増、休日3割5分増)。原則3年分さかのぼれる(残業代の計算方法の記事) |
| 年次有給休暇 | 6ヶ月で10日、以降1年ごとに増える(有休の付与日数の早見表の記事) |
| 最低賃金 | 時給換算で下回れば差額を請求(最低賃金2026の都道府県別一覧の記事) |
| 社会保険・雇用保険 | 要件を満たせばさかのぼって加入 |
| 解雇の制限 | 契約解除でなく解雇。客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が要る |
| 労災保険 | 仕事中・通勤中のけがが対象 |
残す証拠
- 日々の指示が残っているチャット・メール(「今日はこれをやって」が最も効く)
- 勤怠の記録(入退館、打刻、日報)
- 勤務時間・席・出社日の指定がわかるもの
- 朝礼・定例会議への参加の記録
- 報酬の計算方法がわかる請求書と契約書(時給・日給なら強い)
記録はその場で残す。辞めた後に取りに戻れないものが多い。
相談先
| 相談先 | 向く内容 |
|---|---|
| 労働基準監督署 | 残業代、最低賃金、労災 |
| フリーランス・トラブル110番 | 契約・報酬のトラブル。弁護士に無料で相談できる |
| 都道府県労働局の総合労働相談コーナー | どこに出すか迷う時 |
| 公正取引委員会・中小企業庁 | 減額・買いたたき・支払遅延(取適法の4義務と11の禁止行為の記事) |
契約の段階で防ぐ
| 契約書で見る項目 | 望ましい形 |
|---|---|
| 業務の範囲 | 成果物で定義される(時間でなく) |
| 報酬 | 案件・成果物単位。時給なら根拠を明記 |
| 稼働場所・時間 | 指定がない、または最小限 |
| 再委託 | 可(代替性があるほど事業者に近い) |
| 指揮命令 | 発注元の社員から直接受けない旨を書く |
チェックの詳細は業務委託契約書のチェックポイントの記事、単価の決め方はフリーランスの単価の決め方の記事で書いた。
私の場合
私はフリーランスで、常駐の案件は受けていない。理由は、常駐して日々の指示を受ける形になると、単価が時間で決まり、上限が時間の上限で止まるからだ。時間を売る形に戻ると、会社員より条件が悪くなる(社会保険も有休も労災もないまま、拘束だけがある)。受けるとしても、成果物で定義できるか、稼働の裁量があるかを先に見る(会社員に戻るという選択の記事)。
よくある誤解
「契約書に業務委託と書いてあるから業務委託」。実態で判断される。名前は関係ない。
「自分で合意したから請求できない」。労働基準法は当事者の合意で下回れない。合意していても請求できる。
よくある質問
常駐しているだけで偽装請負ですか?
常駐そのものは違反ではない。問題は、発注元の社員から日々の具体的な指示を受けているか、始業終業が管理されているかだ。
何年分さかのぼれますか?
賃金請求権の時効は原則3年(当面の措置)。退職金は5年。早く動くほど取れる範囲が広い。
独立の資料をLINEで無料配布中
契約書と実際の働き方を並べて、労働者性の5要素で判定する記入表を公式LINEで無料配布している。名前でなく、実態で見よう。


