復帰の1ヶ月前、会社との面談で言われた。「戻ってもらう席が、今ないんだよね」。

頭が真っ白になったまま、「そうですか」と答えてしまっていないか。先に言っておく。その言葉は、受け入れる前に疑う言葉だ。育休明けの扱いには法律の線引きがあり、「席がない」の多くはその線を踏んでいる可能性がある。

*筆者の立場|私は男性で1年の育休を取り、復帰した当事者だ。その経験と、DMに届く相談に基づいて書いている。母親たちの復帰の場面がより厳しいことは、相談を受ける側として痛感している。*

この記事の要点

  • 育休を理由とする解雇・降格・不利益な配置転換は、法律で禁じられている
  • 復帰は原職または原職相当職が原則。「席がない」は原則からの逸脱だ
  • その場で同意しない。記録を残す。この2つが最初の防御になる
  • 相談先は都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)。無料で行政が動く仕組みがある

まず法律の線引き。何が禁じられているのか

感情より先に、ルールを正確に押さえる。育児介護休業法は、育休の申し出・取得を理由とする不利益な取り扱いを禁じている。具体的には、解雇、雇い止め、退職の強要、降格、減給、不利益な配置変更などだ。男女雇用機会均等法も、妊娠・出産を理由とする不利益取り扱いを同様に禁じている。

そして復帰後の配置について、厚生労働省の指針は原職または原職相当職に復帰させることが原則という考え方を示している。「原職相当」とは、部署・職務内容・待遇がおおむね同等という意味だ。

つまり、こういう整理になる。

  • 育休を理由とした解雇・退職勧奨——明確に禁止の対象。「席がないから辞めてほしい」はこの類型に入り得る
  • 待遇の下がる配置転換——合理的な理由なく行われれば、不利益取り扱いに当たる可能性がある
  • 同等の条件での配置変更——事業の状況によっては適法な場合もある。組織変更で元の部署自体が消えたケースなどだ

境界線はケースで変わる。だからこそ、あなたが判定する必要はない。判定する行政の窓口がある。それが後で書く労働局だ。

その場でやってはいけないこと、やるべきこと

面談で「席がない」と言われた瞬間の動き方が、その後の全てを左右する。

やってはいけないのは、その場で同意することだ。「分かりました」「仕方ないですね」という応答は、後から合意があったと扱われる材料になり得る。退職届にサインするのは論外で、退職勧奨に応じる義務はそもそもない。その場では「家族と相談します」「持ち帰って考えます」で止める。即答を迫られても、即答しないこと自体は何の違反でもない。

やるべきは、記録だ。

  1. 面談の内容をその日のうちに文字にする。日時・場所・同席者・言われた言葉をできるだけ正確に。スマホのメモでいい
  2. 書面やメールで確認を求める。「先日のお話の内容を確認させてください」と、会社の説明をメールで復唱して送る。返信が来れば記録になり、来なくても送信の事実が残る
  3. 録音も選択肢に入る。自分が参加している会話の録音は、証拠として使える場合が多い。次の面談があるなら検討していい
  4. 雇用契約書・就業規則・育休前の労働条件が分かる書類を手元に揃える

記録は、争うためだけのものではない。相談窓口で正確に状況を伝え、正しい助言をもらうための材料でもある。

相談先。順番に並べる

1人で会社と向き合う必要はない。窓口を、軽い順に並べる。

1つ目、都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)。育休・妊娠出産に関わる不利益取り扱いの専門窓口で、無料だ。相談だけでもいいし、求めれば行政による助言・指導・勧告、さらに調停という、裁判より軽い解決の仕組みが用意されている。会社名を出して相談しても、あなたの同意なく会社に連絡されることは基本的にない。まずここに電話してほしい。

2つ目、労働基準監督署。賃金や解雇の手続き面(解雇予告など)の問題が絡む場合の窓口だ。総合労働相談コーナーが各地にあり、どこに相談すべきか自体の交通整理もしてくれる。

3つ目、弁護士(労働問題特化)。解雇まで進んでしまった場合や、金銭解決を視野に入れる場合。初回無料相談の事務所も多く、ここでも記録の有無が相談の質を決める。

制度の詳細や運用は変わり得るから、最新の相談先・手続きは厚生労働省と都道府県労働局の案内で確認してほしい。

戦う以外の道も、対等に並べておく

正直な話をする。法律があなたの側にあっても、是正させた会社で気持ちよく働き続けられるかは、別の問題だ。だから道は2つとも対等に置いておく。

道1、是正を求めて残る。労働局の調停などで原職相当への復帰を実現する道。制度上の子育て支援(時短・看護休暇)を使い続けられる会社なら、守る価値はある。

道2、記録を残した上で、見切って移る。育休明けに席を用意しない会社は、その後の時短・急な休みへの態度も推して知るべしだ。この会社の本性が早めに分かった、と読み替えて外に出るのは、負けではなく判断になる。

移ると決めた場合、次の会社選びで同じ轍を踏まないことが最重要になる。育休・時短の制度が実際に使われているかは、中の人の口コミで確かめられる。

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転職会議で育休復帰の実態を確かめる

転職活動の進め方はワーママの転職タイミングを起点に、育休中の転職活動の考え方も合わせて読んでほしい。復帰を待たずに動く場合の論点を分けて書いてある。

心が折れそうな人へ

最後に、法律より大事な話を1つ。

復帰前の「席がない」は、キャリアの否定に聞こえる。子を持ったことへの罰のようにも感じる。だが、あれは会社の人員管理の失敗をあなたに押し付けているだけで、あなたの価値の査定ではない。育休は権利で、復帰は原則で、席を用意するのは会社の義務側の話だ。

それでも消耗して、眠れなくなっているなら、争いも転職も一度置いて、休み方の記事から読んでほしい。体勢を立て直してから動いても、権利は消えない(ただし各手続きには期限があるものもあるから、記録だけは先に残しておくこと)。まず記録、次に相談、決断は最後。この順番を守れば、あなたは思っているより強い立場にいる。

あわせて検索される疑問に、先に答えておく

「経営が苦しいから」と言われた場合はどうなるか

経営上の理由による整理解雇には、人員削減の必要性・解雇回避の努力・人選の合理性・手続きの妥当性という厳格な要件が判例で求められている。育休明けの人だけを狙った人選は、合理性の面で強く疑われる。経営難という言葉が出ても、それだけで受け入れる話にはならない。この場合も記録と労働局への相談の手順は同じだ。

復帰後に閑職に回された。これも相談していいのか

いい。解雇や退職勧奨ほど分かりやすくなくても、実質的に仕事を取り上げる配置、経験と無関係の部署への転換、査定の不自然な引き下げは、不利益取り扱いとして相談の対象になり得る。じわじわ型の不利益ほど、日々の記録が物を言う。指示された業務内容・会議から外された事実・査定の推移をメモに残してから、労働局に持ち込んでほしい。

時短を申請したら「戻る席がなくなるよ」と言われた

時短勤務(3歳未満)は育児介護休業法上の権利で、申請を理由とする不利益取り扱いも同じく禁止されている。権利の行使に対する脅しは、それ自体が相談材料だ。言われた日時と言葉を記録し、窓口は同じく労働局の雇用環境・均等部(室)になる。脅しに萎縮して権利を引っ込める必要はない。

よくある質問

育休明けに元の部署に戻れないのは違法ですか?

直ちに違法とは言い切れないが、原職または原職相当職への復帰が原則だ。合理的な理由のない不利な配置転換は不利益取り扱いに当たる可能性がある。労働局に相談して判定してもらってほしい。

育休明けに退職を勧められました。応じるべきですか?

その場で応じない。育休を理由とする退職勧奨・解雇は禁止された不利益取り扱いだ。記録を残し、労働局の雇用環境・均等部(室)に相談してから判断する。

会社と揉めたくない場合はどうすればいいですか?

労働局には助言・指導・調停という裁判より軽い仕組みがある。また、記録を残した上で転職に切り替える道もある。どちらにしても、記録と相談が先だ。

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