仕事中に腰をやった。通勤の途中で転んだ。病院で健康保険証を出したが、これは労災ではないのか。会社は「健康保険で行って」と言う。何が正しいのかが分からない。
仕事中のけがは健康保険でなく労災だ。仕事中のけがは健康保険でなく労災。治療費ゼロ、休業は8割だ。給付の額と、通勤災害の範囲と、会社が渋る時と、フリーランスの特別加入を書く。
先に一文で。労災は治療費が全額給付で自己負担ゼロ、休業は給付基礎日額の60%+特別支給金20%=実質8割が4日目から期間の上限なく出て、待期3日は業務災害なら会社が6割、通勤災害は合理的な経路が対象で日用品の購入なら戻れば再び通勤、会社が渋っても本人が労基署に直接請求でき、フリーランスも2024年11月から特別加入できる。
この記事の要点
- 治療費|労災指定病院なら窓口負担ゼロ。健康保険は使わない
- 休業|給付基礎日額の8割(60%+特別支給金20%)が4日目から。期間の上限なし
- 待期3日|業務災害は会社が平均賃金の6割。通勤災害は出ない
- 会社が渋っても本人が労基署に直接請求できる。労災隠しは違法
給付の一覧
| 給付 | 内容 |
|---|---|
| 療養補償給付 | 治療費の全額。労災指定病院なら窓口負担ゼロ |
| 休業補償給付 | 給付基礎日額の60%+休業特別支給金20%=実質8割。休業4日目から、期間の上限なし |
| 障害補償給付 | 1〜7級は年金(給付基礎日額の131〜313日分/年)、8〜14級は一時金(56〜503日分) |
| 遺族補償給付 | 遺族の人数に応じた年金、または一時金 |
| 傷病補償年金 | 療養が1年6ヶ月を超え重い状態が続く場合 |
| 介護補償給付 | 障害で介護が必要な場合 |
保険料は全額が会社負担で、パート・アルバイト・日雇い・外国人を含む全ての労働者が対象。会社が保険に入っていなくても、労働者は給付を受けられる。
休業補償の額
給付基礎日額=直前3ヶ月の賃金総額÷その期間の暦日数(解雇予告手当の計算方法の記事の平均賃金と同じ計算)。
| 月給 | 給付基礎日額 | 1日の給付(8割) | 1ヶ月休んだ場合(27日分) |
|---|---|---|---|
| 25万円 | 8,152円 | 6,522円 | 約17.6万円 |
| 30万円 | 9,783円 | 7,826円 | 約21.1万円 |
| 40万円 | 13,043円 | 10,434円 | 約28.2万円 |
| 50万円 | 16,304円 | 13,043円 | 約35.2万円 |
最初の3日間(待期)は、業務災害なら会社が平均賃金の60%を払う義務がある。通勤災害では待期の補償はない。健康保険の傷病手当金(3分の2、1年6ヶ月)と違い、労災は期間の上限がなく、療養が続く限り出る(休職中の給与と手当の記事)。
通勤災害の範囲
| 状況 | 労災か |
|---|---|
| 自宅→会社、会社→自宅の合理的な経路 | 対象 |
| 単身赴任先と帰省先の移動、複数の勤務先の間の移動 | 対象 |
| 経路の途中でスーパーに寄って日用品を買い、経路に戻った後 | 対象(日常生活上必要な行為の最小限度) |
| 病院での診察、選挙、家族の介護に立ち寄って戻った後 | 対象 |
| 飲み会・映画館に寄った場合(その間と、その後の帰り道) | 対象外 |
| 通勤経路を大きく外れた私用の移動 | 対象外 |
寄り道の種類で、戻った後の扱いが変わる。日用品の購入は戻れば通勤に復帰し、飲酒や娯楽は戻っても復帰しない。
会社が労災を認めない時
- 労災の請求は本人ができる。労働基準監督署に請求書(療養補償給付なら5号様式、休業なら8号様式)を出す
- 請求書の事業主の証明欄を会社が拒んだ場合は、その旨を記した書面を添えれば受理される。労基署が調査する
- 健康保険で治療してしまった場合も、後から労災に切り替えられる
- 会社が労災を隠す(労災隠し)のは労働安全衛生法違反で、送検の対象
- 労災の申請を理由にした解雇・不利益な扱いは禁止。療養のための休業期間とその後30日間は原則解雇できない
相談先は労働基準監督署(労働基準監督署に相談するとどうなるかの記事)。会社に言いにくい場合も、本人が直接動ける。
過労・精神障害も労災になる
長時間労働による脳・心臓疾患(発症前1ヶ月におおむね100時間、2〜6ヶ月平均で80時間超の時間外労働が目安)と、パワハラ・強い心理的負荷による精神障害(うつ病・適応障害)は、労災の認定基準がある。認定されれば、健康保険の傷病手当金でなく労災の休業補償(8割、上限なし)になる。証拠は勤怠の記録・メールの送信時刻・パワハラの記録で、残し方は未払い賃金の請求のやり方の記事、うつでの休職と退職の順番はうつで退職を考えた時の順番の記事で書いた。
フリーランスの特別加入
労災は雇われて働く人の制度だが、2024年11月から、業務委託で働くフリーランスは業種を問わず特別加入できるようになった。保険料は自分で選ぶ給付基礎日額(3,500〜25,000円)で決まり、日額10,000円なら年間の保険料は数万円。加入していれば、仕事中のけがで治療費と休業8割が出る。フリーランスに傷病手当金がないことを考えると、備えの優先度は高い(フリーランスが病気で働けなくなったらの記事、フリーランスに必要な保険5種類の記事)。
私はフリーランス4年目で、仕事はデスクワーク中心だが、移動中の事故と、長時間の作業による体調の悪化は労災の外にあるという前提で備えを組んだ。会社員の時に当たり前だった労災が、独立すると自分で入る制度に変わる。
よくある誤解
「軽いけがなら健康保険でいい」。仕事中・通勤中のけがに健康保険は使えない。労災なら自己負担ゼロで、健康保険を使うと後で精算が要る。
「会社が認めないと労災にならない」。認定するのは労基署で、会社ではない。本人が直接請求できる。
高額療養費で医療費はどこで止まるか
1ヶ月の自己負担の上限は、年収370〜770万なら80,100円+(医療費−267,000円)×1%で、医療費100万でも約87,430円。限度額適用認定証(マイナ保険証なら不要)を先に取れば窓口の支払いが上限までで済み、12ヶ月に3回該当すれば4回目から44,400円。差額ベッド代と食事代は対象外。年収別の上限は高額療養費はいくら戻るかの記事で書いた。
残業の上限(月45時間・年360時間)
残業は36協定がなければゼロ、結んでも原則は月45時間・年360時間。特別条項でも年720時間・単月100時間未満・複数月平均80時間以内・月45時間超は年6回までが絶対の上限で、超えれば罰則の対象になる。3ヶ月連続45時間超なら自分から辞めても会社都合扱いだ。判定の手順は残業の上限は月45時間・年360時間の記事で書いた。
フリーランス法(2024年11月施行)
発注側には、取引条件の書面明示・納品から60日以内の支払い・7つの禁止行為(減額、買いたたき、返品、不当なやり直しなど。1ヶ月以上の継続取引)・6ヶ月以上なら中途解除の30日前予告と育児介護への配慮・ハラスメント対策が義務づけられた。違反は公取委・中企庁・厚労省に申し出られる。中身はフリーランス法で何が変わったかの記事で書いた。
よくある質問
アルバイトでも労災は使えますか?
使える。雇用形態を問わず、雇われて働く全ての人が対象。会社が労災保険に入っていなくても給付は受けられる(会社は後で保険料を追徴される)。
労災で休んでいる間に退職できますか?
できる。退職しても労災の給付は続く(療養と休業の給付は労災の事由が続く限り出る)。ただし療養のための休業期間とその後30日間は、会社からの解雇が原則禁止されている。
退職と休職の資料をLINEで無料配布中
労災か健康保険かの判定表と、給付基礎日額から休業補償を出す計算欄、会社が渋る時の請求手順を並べた記入表を公式LINEで無料配布している。仕事中のけがに、健康保険証は出さない。

