内定の通知を見ながら、電卓を叩いていた。提示された年収は、当時もらっていた額より低かった。それでも私は、この会社に行くと決めた。
いま振り返って、4回の転職の中で一番良い判断だったと断言できる。今日はその話をする。
この記事の要点
- 年収を下げていいのは、交換するものが具体的な時だけだ
- 判断の基準は金額の絶対値ではなく、下がった手取りで生活が回るかどうか
- 交換したものが日常的に効くなら、満足度は下がらない
- 下げるなら、その理由を説明できる形にしておく
3社目までは、順調だったはずだった
先に前提を書く。私は美容業界のブラック企業を1年以内に辞めて、フリーター期間を経て、未経験でWeb業界に入った。そこからECサイト運営とWebデザインを覚えて、大手系企業のUIデザイナーに転職し、2年後にディレクターへ上がった。
数字で見れば、上がっていた。役職も付いたし、収入も入社当初より増えていた。フリーターだった頃から見れば、望んでいた場所に立っていたはずだった。
それなのに、疲れていた。
通勤の時間が長かった。会議が多くて、自分の手を動かす時間が夜に押し出されていた。家に帰るのは、寝るためだけになっていた。役職が上がるほど、時間の自由は減っていった。
そして当時、これから家庭のことを考える時期でもあった。このままの働き方で、家庭に向き合えるのかという問いが、ずっと頭にあった。
会社を探す基準を、途中で変えた
最初は普通に、条件の良い会社を探していた。年収が上がる会社、名前の通った会社。求人を見る目が、それまでと同じだった。
途中で気づいた。自分が欲しいのは、年収の上積みではなかった。
欲しかったのは、通勤に消える時間、家にいられる時間、そして制度が本当に使える職場だった。この3つは、年収の欄には表示されない。だから、年収でソートしている限り一生見つからないものだった。
そこで基準を書き換えた。リモートが実際に運用されているか。育休の取得実績があるか。残業がどのくらいか。この3つを最優先にして、年収は「生活が回る下限を割らなければいい」という条件に落とした。
この瞬間に、見える求人が変わった。それまで検討対象ですらなかった会社が、急に候補になった。
大阪のWebのホワイト企業。年収は下がった
そうして見つけたのが、大阪のWeb系の会社だった。リモートの運用実績があり、制度も整っていて、残業も少なかった。
提示された年収は、当時の収入より低かった。
正直に書くと、迷った。下がるという事実は、思っていたより重かった。自分の価値が下がったように感じたし、周りに説明するのも気が重かった。実際、話した相手のほとんどが「もったいない」と言った。下げる転職を勧めてくれる人は、1人もいなかった。
決め手になったのは、電卓だった。固定費を全部書き出して、下がった手取りで生活が回るかを計算した。回った。回るなら、あとは何と交換するかの問題だった。
交換するものは、はっきりしていた。時間と、場所と、制度。この3つが、私にとっては差額より高かった。
3年後に起きたこと
入社して、まず3年、普通に働いた。ここは大事なところで、制度は入社直後には使えない。信頼が要る。
3年かけてやったことは単純だ。任された仕事をちゃんと返し続けた。特別なことは何もしていない。ただ、この職場で長く働く前提で振る舞った。
そして、男性で1年の育休を取った。
日本の男性の育休取得率を考えれば、これは簡単なことではない。取れた理由は、制度がある会社を選んでいたことと、3年分の信頼があったことの両方だ。どちらが欠けても取れていない。
育休の期間に、匿名のSNSアカウントを複数育てた。時間があったから書けた。フォロワーが増えて、副業収入が給与を超える月も出た。
そして復帰した後、沖縄に移住してフルリモートで働いた。住む場所を、会社ではなく自分で決めた。
この全部が、年収を下げた日から始まっている。あの時に年収でソートし続けていたら、育休も、移住も、いまのフリーランスの仕事も、1つも起きていない。
年収を下げていい条件と、下げてはいけない条件
美化しないために、判断の線を引いておく。年収を下げる転職が正解になるのは、条件が揃った時だけだ。
下げていい場合
- 交換するものが具体的である。時間、場所、制度、健康。曖昧に「楽になりそう」で下げると必ず後悔する
- 下がった後の手取りで、生活が回る計算ができている。感覚ではなく数字で確認している
- 交換したものが、日常的に効く。毎日の通勤時間や、毎年の休みの取りやすさ。たまにしか効かないものと交換すると、差額の方が大きく感じる
下げてはいけない場合
- いまが辛いから逃げたいだけ。それは環境を変える理由にはなるが、年収を下げる理由にはならない
- 交換条件を、口約束でしか確認していない。リモートも育休も、運用実績を確認していない制度は存在しないのと同じだ
- 生活が赤字になる。ここは議論の余地がない
そしてもう1つ。直近の年収は、次の転職での提示の参考にされる場面がある。だから下げるなら、「なぜ下げたか」を説明できる形にしておくことと、市場価値を定期的に測り直しておくことがセットになる。下げた状態を放置すると、後で戻しにくくなる。
判断の前に、自分の相場を知っておく
私があの時やっておくべきだったと思うことを1つ書く。下げる判断をする前に、自分の市場価値を正確に測っておくことだ。
「下がる」という感覚は、いまの会社の給与を基準にしている。だが本当に必要なのは、市場から見た自分の値段だ。それを知っていれば、提示額が相場より低いのか、相場どおりなのかが判断できる。相場より低いなら交渉の余地があるし、相場どおりなら納得して受け入れられる。
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年収を下げる転職の是非は年収を下げる転職は後悔するのか、住む場所を自分で決める話は地方移住してリモートで働くにもまとめてある。
最後に
「もったいない」と言ってきた人たちは、誰も私の毎日を生きていなかった。通勤に消えていた時間も、家に帰れない夜も、その人たちの視界には入っていない。
年収は、比べやすいから物差しにされる。だが年収で比べられるのは年収だけで、それ以外の全部は年収の欄には出てこない。
あなたが本当に欲しいものが年収以外にあるなら、それは正当な判断軸だ。下げろと勧めているのではない。下げるという選択肢を、最初から除外しないでほしいという話だ。
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よくある質問
年収を下げる転職は後悔しませんか?
何と交換したかによる。交換したものが日常的に効くもの(時間・場所・制度)なら、満足度は下がらないことがある。逆に交換対象が曖昧なまま下げると後悔しやすい。
下げていい金額の目安はありますか?
金額の絶対値ではなく、下げた後の手取りで生活が回るかで判断する。固定費を書き出して、成立する下限を先に決めておくべきだ。
年収を下げると次の転職で不利になりませんか?
直近の年収が次の提示の参考にされる場面はある。だから下げる時は、その分の交換条件を説明できる形にしておくことと、市場価値を定期的に測っておくことが重要になる。
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