取引先から「インボイスの登録番号を教えてください」と言われた。登録すると税金が増えると聞くし、しないと仕事が減ると聞く。どちらが正しいのか、自分の場合はどうなのかが分からない。
答えは取引先で決まる。取引先が会社なら登録、個人客なら不要。2割特例の期限は2026年9月。判断表と、その後に起きることを書く。
先に一文で。インボイスは、取引先が課税事業者ならあなたが未登録だと相手が消費税を控除できず値引きを求められやすい制度で、登録すると売上1,000万以下でも納税が発生し、2026年9月30日までの課税期間は2割特例で受け取った消費税の2割で済み、その後は簡易課税(サービス業は5割)に切り替える。
この記事の要点
- 取引先が法人・課税事業者→登録。個人客・免税事業者→不要
- 未登録のままだと、取引先の控除は2026年9月まで80%、2029年9月まで50%、以後0%
- 登録後の納税|2割特例は2026年分まで。2027年分から簡易課税(サービス業50%)
- 売上500万なら、2割特例で年10万、簡易課税で年25万の納税
制度で何が変わったか
2023年10月から、取引先(買い手)が支払った消費税を自分の納税額から差し引く(仕入税額控除)には、登録番号の入った請求書(インボイス)が必要になった。
あなたが免税事業者(売上1,000万円以下で消費税を納めていない)のままだと、インボイスを出せない。すると取引先は、あなたに払った消費税を控除できなくなる。取引先の負担が増えるので、値引きか登録を求められる、という順番で影響が来る。
未登録のままの取引先への影響(経過措置)
| 期間 | 取引先が控除できる割合 | 取引先の実質負担(10万円+消費税1万円の請求の場合) |
|---|---|---|
| 2026年9月30日まで | 80% | 2,000円 |
| 2026年10月1日〜2029年9月30日 | 50% | 5,000円 |
| 2029年10月1日以降 | 0% | 1万円 |
2026年10月から取引先の負担が2.5倍になる。未登録で通ってきた人も、2026年秋に再び聞かれる可能性が高い。
登録すべきかの判断表
| 取引先 | 登録 | 理由 |
|---|---|---|
| 法人・売上1,000万超の事業者が中心 | する | 相手の控除が減る。値引きか取引見直しの対象になる |
| 一般の個人客(消費者)が中心 | しない | 相手に控除の問題がない |
| 取引先が簡易課税か免税の小規模事業者 | しない | 相手は仕入税額控除を個別に計算しない |
| クラウドソーシング経由が中心 | プラットフォームの方針次第 | 未登録者への報酬を減額する設定があるか確認する |
| 法人と個人客が半々 | 法人側の売上比率で決める | 法人分の売上×消費税×経過措置の減り分と、登録後の納税額を比べる |
迷う場合は、法人取引の消費税額×50%(2026年10月以降の減り分)と、登録後の納税額を比べる。前者が大きければ登録する。
登録すると納める額
| 売上(税抜) | 受け取る消費税 | 2割特例(2026年分まで) | 簡易課税・サービス業50%(2027年分から) | 原則課税(経費率20%の場合) |
|---|---|---|---|---|
| 300万円 | 30万円 | 6万円 | 15万円 | 24万円 |
| 500万円 | 50万円 | 10万円 | 25万円 | 40万円 |
| 800万円 | 80万円 | 16万円 | 40万円 | 64万円 |
| 1,000万円 | 100万円 | 20万円 | 50万円 | 80万円 |
2割特例が終わると納税は2.5倍になる。経費の少ないフリーランスは簡易課税が原則課税より有利で、2027年分から使うなら2026年12月31日までに簡易課税制度選択届出書を出す。届出を出さないと原則課税になる。
納税分は手取りから消えるので、売上と経費率ごとの手取り表(個人事業主の手取り早見表の記事)の数字から、この表の額を引いて読む。
登録しない場合の値引き要請への対応
未登録のまま取引先から「消費税分を引かせてほしい」と言われた時、全額の値引きに応じる義務はない。取引先が控除できないのは経過措置の減り分(2026年9月まで20%、それ以降50%)だけで、それを超える値引き要請は、公正取引委員会が独占禁止法・下請法上の問題になり得るとしている。
対応の型は3つ。
- 減り分だけ応じる|「控除できなくなる分(消費税の20%)は調整に応じます」
- 登録して単価を上げる|納税分を単価に乗せて交渉する(フリーランスの単価の上げ方の記事)
- 取引先を変える|個人客や小規模事業者へ比重を移す
登録後の請求書に書くこと
- 登録番号(T+13桁)
- 取引年月日
- 取引の内容
- 税率ごとに区分した金額と適用税率
- 税率ごとの消費税額
- 相手の名称
請求書のテンプレートに登録番号と税率・税額の行を足せば済む。消費税を別立てで請求する形にしておくと、納税額の計算も簡単になる。
やめる時
登録を取りやめるには「適格請求書発行事業者の登録の取消しを求める旨の届出書」を、やめたい課税期間の初日から15日前までに出す。2年縛りはないが、2割特例を使った後に免税に戻る場合は、届出の時期で扱いが変わるので税務署に確認する。
私はフリーランス4年目で、取引先がほぼ法人なので登録している。2割特例の間は納税が売上の2%弱で済んでいるが、2027年分から簡易課税で5%に上がるので、その分を単価に乗せる交渉を2026年のうちに済ませる予定だ。制度の期限は、値上げの理由に使える。
よくある誤解
「売上1,000万円以下なら関係ない」。取引先が法人なら関係する。未登録の影響は取引先側に出て、値引きの形で返ってくる。
「登録したら消費税を全額納める」。2026年分までは2割特例で受け取った消費税の2割、その後は簡易課税で業種ごとの割合。全額ではない。
フリーランスの保険と契約の守り
会社員の保障6つのうち独立で残るのは医療費3割と国民年金だけで、消える傷病手当金・労災・賠償の代わりは労災特別加入(年1〜2万)・所得補償(月1万前後)・賠償責任保険(フリーランス協会)で埋める(フリーランスに必要な保険5種類の記事)。2024年11月のフリーランス新法で発注者には条件の書面明示と60日以内の支払いが義務になり(フリーランス新法を分かりやすくの記事)、契約書は損害賠償の上限・中途解約・競業避止の3ヶ所を直す(業務委託契約書のチェック項目の記事)。
予定納税と簡易課税
独立2年目の6月には、1年目の所得税が15万円以上なら予定納税(3分の1ずつを7月と11月に前払い)の通知が来る(予定納税とはの記事)。インボイスの2割特例が2026年分で終わった後は、経費率が50%未満のサービス業なら簡易課税(受け取った消費税の50%)が原則課税より少なく、2027年分から使うなら2026年12月31日までに届出を出す(簡易課税制度とはの記事)。
帳簿と経費の実務
会計ソフトはfreee・弥生・マネーフォワードのどれも65万控除に対応し、簿記を知らない人はfreee、経験者か初年度を安くしたい人は弥生、法人化を見据える人はマネーフォワードが向く(個人事業主の会計ソフトの比較の記事)。経費の線は「売上を得るために使ったと説明できるか」の1つで、家賃と電気代は事業割合3〜5割で按分し、経費を増やすと手取りは減る(個人事業主の経費はどこまでかの記事)。
独立・副業・お金の全体像
副業の申告→独立の資金と手続き→初年度の税と保険→稼ぎ方と手取り→将来の積立の5段階で、今いる段階の記事だけ読めばいい。全体は独立・副業・お金の完全ガイドにまとめた。
請求書と屋号・口座の実務
請求書は宛名・発行者・番号・発行日・内容・金額(税抜/消費税/税込)・支払期日・振込先・登録番号の9項目で完成し、源泉徴収の仕事は税抜額×10.21%を引いた差引額を書く(フリーランスの請求書の書き方の記事)。屋号は任意で後から変えられ、口座とカードを事業専用に分けるだけで帳簿がほぼ自動になる(屋号の決め方と事業用口座の記事)。
よくある質問
登録したら青色申告や所得税は変わりますか?
変わらない。消費税の申告が所得税の確定申告と別に増えるだけだ。納めた消費税は経費(租税公課)にできる。
少額の取引は請求書なしでも控除できると聞きました
少額特例で、1万円未満の取引は帳簿だけで控除できる(買い手の課税売上が1億円以下など、2029年9月30日まで)。あなたが出す側の話ではなく、買い手側の特例だ。
独立の資料をLINEで無料配布中
取引先の構成から登録すべきかを判定する記入表(法人比率×経過措置の減り分と、登録後の納税額の比較式つき)を公式LINEで無料配布している。2026年9月の前に、判断を終わらせよう。

