フリーランスで数年やって、売上が伸びてきた。周りから「そろそろ法人化したら」と言われるが、何がどう変わるのか分かっていない。
先に結論を書く。節税の話だけで決めると、増える手間の側で後悔する。税金は判断材料の1つでしかない。何が変わるのかを全部並べてから、自分の数字で決める順番になる。
この記事の要点
- 「所得800万」の目安は一般論。自分の数字で試算しないと意味がない
- 変わるのは税金だけではない。社会保険と事務の負担が増える
- 赤字でも発生する税金がある。売上が不安定な段階では重い
- 迷っている段階なら、個人事業のまま続ける判断も合理的だ
よく言われる「所得800万」の目安は、何の話か
まずこの数字の出どころを整理する。
個人事業主の所得には所得税がかかり、所得が増えるほど税率が上がる仕組みになっている。一方で法人の利益には法人税がかかり、こちらは税率の上がり方が違う。
この2つの税率が逆転するあたりの目安として、所得800万円前後という数字が語られる。
ただし、これは税率だけを見た一般論だ。実際の損得は次の要素で動く。
- 扶養家族の有無——所得控除の額が変わる
- 経費の構成——役員報酬をどう設定するかで結果が変わる
- 社会保険料の負担——法人化で増える場合がある
- 事業の見通し——来年も同じ売上が出るのか
だから、この数字を目安として「そろそろかな」と思うのは正しいが、そこで決めるのは早い。自分の数字を持って、税理士に試算してもらう段階になる。
税金以外に変わること。ここを見落とす人が多い
法人化の話は税金に寄りがちだが、実際に生活が変わるのはこちらの方だ。
1、社会保険への加入が原則必要になる。国民健康保険・国民年金から、健康保険・厚生年金に変わる。保険料の負担が増える場合がある一方で、将来受け取る年金額や保障の面では手厚くなる面もある。
2、会計と申告の負担が増える。個人の確定申告と法人の決算では、作業の量が違う。税理士に依頼する費用が発生するのが一般的で、これは固定費として毎年かかる。
3、赤字でも発生する税金がある。法人住民税の均等割は、利益が出ていなくても納める必要がある。売上がゼロの年でもコストが出続けるという点は、個人事業と決定的に違う。
4、辞めるにも手続きが要る。個人事業なら廃業届で終わるが、法人の解散・清算には手間と費用がかかる。入るより出る方が重い。
所得別の手取り比較表(令和8年分の税制で計算)
事業所得(売上−経費)ごとに、個人事業主(青色65万円控除)と法人(役員報酬+法人に残す利益)の手取り合計を計算した。法人は、役員報酬を12万〜510万円の範囲で動かして合計が最も大きくなる額を採用し、法人税等は実効25%(所得800万円超は34%)+均等割7万円、税理士などの維持費30万円を引いている。社会保険は協会けんぽ東京・40歳未満。
| 事業所得 | 個人事業主の手取り | 法人の手取り合計(個人+法人内) | 差 | 採用した役員報酬 |
|---|---|---|---|---|
| 500万円 | 368万円 | 345万円 | −23万円 | 120万円 |
| 600万円 | 424万円 | 420万円 | −5万円 | 120万円 |
| 700万円 | 480万円 | 495万円 | +14万円 | 120万円 |
| 800万円 | 536万円 | 570万円 | +33万円 | 120万円 |
| 900万円 | 595万円 | 645万円 | +50万円 | 120万円 |
| 1,000万円 | 655万円 | 718万円 | +62万円 | 150万円 |
| 1,200万円 | 772万円 | 854万円 | +81万円 | 330万円 |
| 1,500万円 | 926万円 | 1,054万円 | +127万円 | 510万円 |
| 2,000万円 | 1,183万円 | 1,384万円 | +201万円 | 510万円 |
読み方は3つある。
1、分岐は所得600〜700万円。維持費30万円を払っても、700万円で法人が上回り、800万円で30万円以上の差になる。
2、差が出る理由は社会保険料と法人税率。役員報酬を低くすると社会保険料が最低額(年33万円、会社負担込み)で済み、残りは法人税等25%で課税される。個人事業主は所得が上がるほど所得税率(20〜33%)と国保(上限92万円)が重くなる。
3、法人内の利益は自由に使えない。表の「法人の手取り合計」には法人に残る利益が含まれ、私用に使うには役員報酬か配当か退職金として取り出す時に課税される。役員報酬を生活費に足る額(月30万円=年360万円)にすると、差は縮む。所得800万円で+15万円、900万円で+31万円、1,000万円で+46万円だ。
役員報酬で年360万円を取る前提なら、維持費を引いて差が出始めるのは所得700万〜800万円で、それ以下は個人事業主のままのほうが手取りは多い。法人に利益を残せる(生活費が事業所得より十分に少ない)人ほど、法人化の効果が早く出る。個人事業主の手取りの元の表は個人事業主の手取り早見表の記事で書いた。
法人化で得られるもの
負担の話を先に書いたので、利点も並べる。
- 税率の面で有利になる場合がある——所得の帯によって
- 取引の条件になる場合がある——法人としか契約しない企業がある
- 信用の面で動く場面がある——事務所の契約や融資の場面など
- 決算期を選べる——事業の繁忙に合わせて設定できる
特に2つ目は、税金とは別の理由で法人化する動機になる。狙っている取引先が法人限定なら、そこは数字の計算とは別の判断になる。
判断の順番。3ステップでいい
実務的な手順を書く。
ステップ1、直近2年の数字を出す。売上、経費、所得。変動が大きいなら、その事実自体が判断材料になる。
ステップ2、税理士に試算を依頼する。多くの税理士が初回相談を受けている。「法人化した場合としない場合で、手取りがどう変わるか」を出してもらう。ここに数万円かけても、判断を誤るコストより安い。
ステップ3、増える手間を許容できるか考える。税額が有利になっても、事務の負担で本業の時間が削られるなら意味が薄い。
フリーランスの収入の実際と推移はフリーランス3年目の収入に書いた。売上が安定しているかどうかが、この判断の土台になる。
手続きを進める段階になったら
法人設立の手続きは、書類の作成が煩雑だが、自動化できる部分がある。
*クリックすると公式サイトが開く。会社設立の書類作成を進められるサービスで、無料で使い始められる。*
利用の流れ|① 必要事項を入力する → ② 設立に必要な書類が作成される → ③ 手順に沿って提出する
まだ個人事業の段階で、開業届から始める人はこちらになる。
*クリックすると公式サイトが開く。開業届の作成を進められるサービスで、無料で使い始められる。*
利用の流れ|① 質問に答えて入力する → ② 開業届と青色申告承認申請書が作成される → ③ 税務署に提出する
開業届そのものの出し方は開業届の出し方に手順で書いた。個人事業の段階で青色申告の届出まで済ませておくと、節税の幅が先に広がる。
書類の作成は道具で軽くできるが、法人化するかどうかの判断そのものは道具では決まらない。そこは自分の数字と、税理士の試算で決めることだわ。
法人化しない判断も、十分に合理的だ
最後に、逆側を書いておく。
売上の変動が大きい段階では、法人化は重い。赤字でも発生する税金と、毎年の事務コストが固定費として乗る。1年伸びたから法人化して、翌年落ちて後悔する話は普通に起きる。
判断の目安を1つ挙げるなら、2年続けて同じ水準の所得が出ているかになる。1年だけの数字は、事業の実力とは限らない。
そして法人化は、いつでもできる。焦って決める性質のものではない。副業から始めている段階なら副業の完全ガイドの方が先に読む価値がある。
法人にして得たものと失ったものは一人社長のメリットとデメリットの現実だ。
役員報酬と法人に残す額の分け方は一人社長の年収の現実だ。
税金の種類と節税の順番は一人社長の税金の基本と対策の順番だ。
年収より先に見る4つの条件はフリーランスは年収いくらで法人化すべきかだ。
会社員がマイクロ法人を作る損得は会社員の副業を法人化する意味と落とし穴だ。
段階順に全記事を並べた入口は一人社長の完全ガイドだ。
法人化後に国保のままにできるかは法人化しても国保のままにできるかに書いた。
あわせて検索される疑問に、先に答えておく
会社員が副業のために法人を作るのはどうですか
可能ではあるが、確認すべきことが多い。まず勤務先の就業規則で副業と法人の役員就任が認められているか。許可制なら申請の手順が要る。そして法人を作ると社会保険の扱いが複雑になる場合があるため、税理士と社会保険労務士に確認する領域になる。副業の規模が小さい段階では、個人事業のまま進める方が身軽だ。会社にバレる経路の話は住民税が絡むため、そこも含めて確認してほしい。
マイクロ法人という言葉を聞きますが、何が違いますか
一人で運営する小規模な法人を指して使われる言葉で、法律上の特別な区分ではない。社会保険料の負担を抑える目的で語られることが多いが、制度の運用や条件は変わりうるし、個々の状況で成立するかも変わる。ネット上の情報だけで組むと、後から想定と違う扱いになる危険がある。この領域こそ、専門家に自分の数字で確認すべき場所になる。
法人化すると経費で落とせる範囲が広がりますか
広がる部分はあるが、「何でも経費になる」という理解は間違いだ。法人でも、事業に関係のない支出は経費にならない。役員報酬の設定や社宅の扱いなど、法人特有の組み方があるのは事実だが、それぞれに条件がついている。経費を目的に法人化すると、条件を満たさずに否認されるリスクを抱えることになる。節税は結果であって、目的にすると危ないんよ。
ここまでのまとめ
・「所得800万」の目安は一般論。自分の数字で試算しないと意味がない
・変わるのは税金だけではない。社会保険と事務の負担が増える
・赤字でも発生する税金がある。売上が不安定な段階では重い
個人事業主の手取り早見表
2026年の税率と東京23区の国保で、売上500万(経費20%)の手取りは約301万、800万で約447万、1,000万で約536万で、会社員の同じ額より2割前後少ない。売上×経費率の一覧と、月30万を残すのに必要な売上の逆算は個人事業主の手取り早見表の記事で書いた。業務委託の月額を会社員の月給に換算する倍率は業務委託の手取り計算の記事にある。
独立とお金の入口
独立の資金は生活費6ヶ月+前年の税と保険料の後払い(年収500万で約88万)+初期費用で、退職翌月に国保と年金、6月に住民税が来る(独立の資金はいくら要るかの記事)。国保が高い時の5つの対策は国民健康保険が高い時の対策の記事、青色申告の65万控除は青色申告とはの記事、インボイスの判断はインボイスをフリーランス向けに分かりやすくの記事、老後の積立はフリーランスの老後資金の記事で書いた。
自分で作る退職金と老後の積立
会社員の退職金がないフリーランスは、小規模企業共済(月7万まで全額控除、廃業時に退職所得として受け取る)で自分の退職金を作る。節税額の早見表とデメリットは小規模企業共済とはの記事、年金の差と積立の順番はフリーランスの老後資金の記事で書いた。
予定納税と簡易課税
独立2年目の6月には、1年目の所得税が15万円以上なら予定納税(3分の1ずつを7月と11月に前払い)の通知が来る(予定納税とはの記事)。インボイスの2割特例は2026年分で終わり、登録で課税事業者になった個人事業者は2027・2028年分に3割特例(受け取った消費税の30%)が使える(令和8年度税制改正)。その後は、経費率が50%未満のサービス業なら簡易課税(受け取った消費税の50%)が原則課税より少なく、3割特例の翌年に移るならその年の申告期限までに届出を出せばいい(簡易課税制度とはの記事)。
独立・副業・お金の全体像
副業の申告→独立の資金と手続き→初年度の税と保険→稼ぎ方と手取り→将来の積立の5段階で、今いる段階の記事だけ読めばいい。全体は独立・副業・お金の完全ガイドにまとめた。
独立前に会社員のうちにやること
会社員の信用は辞めた瞬間に消える。クレジットカード・賃貸・ローンの契約、副業での受注実績、生活費6ヶ月+税と保険料の後払い分の貯金、健康診断、有給消化と6月以降の退職、企業型DCの移換先、在職中の給付、就業規則の競業避止の10個を1年前から順に進める(独立前に会社員のうちにやること10個の記事)。フリーランス1年目は賃貸の審査に落ちやすく、在職中の契約が最も確実だ(フリーランスは賃貸の審査に通らないのかの記事)。
年金の平均受給額(公的データ)
令和6年度の老齢年金の平均月額は厚生年金150,289円(男性169,967円・女性111,413円)、国民年金59,310円で、厚生年金の19%は10万未満・19%が20万以上。令和8年度の満額は70,608円、モデル年金は237,279円。年収500万×40年なら月約16.2万で、独立後の期間は基礎年金の7.1万しか積み上がらない。年収別の早見表は年金は平均いくらもらえるかのデータ記事で書いた。
フリーランスの節税の順番と効果
所得500万のフリーランスの年間の税と保険料は、青色65万で25.2万、小規模企業共済84万で15.9万、iDeCo90万で16.8万、両方で29.5万、経費50万で17.2万減る。青色は掛金なしで最初、共済とiDeCoは貯金6ヶ月の後、国保は所得控除では減らない。所得別の早見表と順番はフリーランスの節税を効果の大きい順にの記事で書いた。
フリーランスに税理士は必要か
税理士の費用は確定申告だけで5〜15万、個人の顧問で年20〜45万、法人で年40〜90万。売上1,000万以下の免税事業者で取引が単純なら会計ソフトで足り、頼むのは消費税の課税事業者・法人化・税務調査・売上の急増の時。記帳は自分でやり申告だけ頼めば費用は半分になる。相場と線はフリーランスに税理士は必要かの記事で書いた。
フリーランスの消費税はいつから払うか
消費税は2年前の売上1,000万超で課税、前年上半期1,000万超(売上も給与も)なら翌年から、インボイス登録なら登録日から課税になる。納税額は本則(受取−支払)・簡易(サービス業は受取の50%)・2割特例(受取の20%、2026年分まで。登録で課税になった個人事業者は2027・2028年分に3割特例)で、売上1,200万のサービス業なら90万・60万・24万。判定と手順はフリーランスの消費税はいつから払うかの記事で書いた。
マイクロ法人で社会保険料を下げる
マイクロ法人は役員報酬を月6万円程度にして社会保険を最低等級(月約1.6万円)にする形で、国保+国民年金(所得400万で年60〜70万)との差は年30〜60万。ただし設立6〜20万・維持年20〜30万のコストと、法人と個人の申告を分ける手間、実体のない分離が否認されるリスクがある。判断はマイクロ法人で社会保険料はどれだけ下がるかの記事で書いた。
著作権を全部譲渡してはいけない
著作権法61条2項により、27条(翻案権等)と28条(二次的著作物の利用に関する原著作者の権利)は譲渡の目的として特掲されていなければ譲渡した者に留保されると推定される。だから発注側の契約書には必ず「27条及び28条を含む」が入る。著作者人格権は譲渡できないので、不行使条項が置かれる。取りにいくのは利用許諾化・範囲の限定・二次利用の追加報酬・実績公開・氏名表示の5つだ。書き方は著作権を全部譲渡してはいけない理由の記事で書いた。
10万・20万・30万の3つの線
取得価額10万円未満(または使用可能期間1年未満)は全額その年の経費、10万〜20万未満は一括償却資産で3年に3分の1ずつ、10万〜30万未満は青色申告者なら年300万円まで一括にできる(適用期間の期限は最新を確認)。それ以上は耐用年数で定額法(パソコン4年、カメラ5年、普通車6年)。開業費は任意償却で、黒字が出た年にまとめて落とせる。線引きはパソコンは一括で経費にできるのかの記事で書いた。
経営セーフティ共済は節税になるのか
経営セーフティ共済は掛金月5,000円〜20万円(年最大240万円、積立ての上限800万円)が全額損金・必要経費になり、40か月以上納めれば全額戻る。ただし解約手当金は収入になるので節税でなく課税の繰り延べで、出口の年を先に決めておく必要がある。令和6年10月1日以降に解約して再加入すると、解約から2年間は掛金を経費にできない。中身は経営セーフティ共済は節税になるのかの記事で書いた。
3分で診断:副業・独立タイプ診断——資産型か労働型か、自分に向く副業の型が8問で分かる。無料・登録不要。
一人で働く人の単価・収入源・法人化・AIでの自動化は、私が運営しているメンバーシップTHINK LESS CLUBで続きを出している。何が読めるかは募集ページに書いてある。中身と向かない人はTHINK LESS CLUBとはに書いた。
よくある質問
法人化は売上いくらから検討すべきですか?
所得800万前後という目安は税率から来た一般論だ。扶養・経費・社会保険で分岐点は動くため、自分の数字で試算してもらう。
法人化すると何が変わりますか?
社会保険への加入が原則必要になり、会計と申告の負担が増える。赤字でも発生する税金もある。
法人化しない方がいい場合はありますか?
売上の変動が大きい段階では重い。2年続けて同じ水準の所得が出ているかが、1つの目安になる。
法人化すると決めた後の手続きの壁は、弥生のかんたん会社設立の検証で書いたツールで下げられる。判断が先、手続きが後の順番だけ守ればいい。
独立の順番をLINEで無料配布中
開業から法人化までの順番と、先にやる手続きをまとめた資料を、公式LINEで無料配布している。焦って決める話ではないわ。



